幼保一元化

幼保一元化とは

幼保一元化（ようほいちげんか）は、少子化の進行や保護者の多様な育児ニーズに応えるため、それぞれ異なる経緯で発展してきた幼稚園と保育所が抱える課題を解決し、両施設の機能を統合しようとする政策概念です。主に、運営基準、職員に求められる資格（幼稚園教諭と保育士）、そして管轄する省庁（文部科学省、厚生労働省、現在はこども家庭庁も関与）の違いなどを解消し、教育と保育の水準を均等化し、サービスの効率化を図ることを目指しています。なお、民主党政権下では「幼保一体化」という言葉が主に用いられていました。

施設の成り立ちとその違い

幼稚園は主に文部科学省が所管する学校教育法に基づく教育施設であり、教育に重点を置いています。一方、保育所は厚生労働省が所管する児童福祉法に基づく児童福祉施設であり、保護者が就労などで保育に欠ける児童を預かる福祉的な機能を持っています。こうした設立の目的や根拠法の違いは、施設の基準、人員配置、カリキュラム、さらには対象となる子どもの年齢（幼稚園は3歳から就学前、保育所は0歳から就学前）や、入所を希望する保護者の属性（幼稚園は片働き家庭が多い、保育所は共働き・一人親家庭が原則）など、多くの面で顕著な違いを生んでいます。

一元化に向けた歴史的経緯

幼保一元化に向けた議論は、1990年代後半から本格化しました。1996年には地方分権推進委員会が地域の実情に応じた幼稚園と保育所の施設の共用化など、弾力的な運用を求めました。これを受け、翌年の教育改革プログラムや検討会を経て、1998年には施設の共用化に関する具体的な指針が示され、実践が始まります。2000年代に入ると、構造改革特別区域制度を活用し、幼保合築施設での合同活動や保育所給食の外部搬入などが容認され、規制緩和が進みました。2004年には、中央教育審議会と社会保障審議会の合同会議で、教育と保育を一体として捉える総合施設の骨子が取りまとめられ、2005年にはそのモデル事業が実施されました。そして、これらの議論や試行を踏まえ、2006年には「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」が公布され、幼保一体化施設である認定こども園制度が創設されるに至ります。

政府の取り組みと認定こども園

歴代政権も幼保一体化・一元化を推進してきました。民主党政権下では「幼保一体化」と称し、省庁の一体化を含むシステム構築や利用者本位の制度改革を目指す方針を示しました。2009年のマニフェストでは、子どもに関する施策の縦割り行政解消と「子ども家庭省」設置検討が掲げられました。自民党政権下では「幼保一元化」と称し、現在では幼稚園、保育所、認定こども園をこども家庭庁に一元化する方向で調整が進められています。しかし、文部科学省、厚生労働省、内閣府（こども家庭庁）といった関係省庁間の管轄を巡る調整は難航しており、「器作り」が先行しているとの指摘もあります。

認定こども園は、この幼保一体化の具体的な受け皿として2006年に創設されました。これは、保護者の就労状況に関わらず、幼稚園のように教育を主として短時間利用できる機能と、保育所のように長時間保育を行う機能を併せ持つ施設です。現在、認定こども園の所管は主に内閣府またはこども家庭庁ですが、幼稚園・保育所は引き続き文科省・厚労省が管轄しており、こうした状況は「三重行政」と揶揄されることもあります。

一元化に向けた課題

幼保一元化には、解決すべき多くの課題が存在します。まず、前述のような設立思想や根拠法の違いから生じる運営基準やカリキュラムの調整は容易ではありません。保育所は福祉的な平等性を重視する一方、幼稚園は学校教育としての側面を持ちます。対象年齢の違いからくる設備の課題も大きく、特に0歳から2歳までの乳児を受け入れるためには、保育所に求められる専用のトイレや沐浴設備、アレルギー対応を含む給食設備などが必要となり、幼稚園がこれらの機能を持つには多大な投資と専門人材の確保が必要です。また、園庭の広さや職員配置基準など、保育所が幼稚園並みの教育環境を整える場合にも同様の課題があります。

さらに、働く保護者が多い保育所と、比較的片働き家庭が多い幼稚園では、保護者会の開催時間なども異なります。職員を取り巻く環境も異なり、幼稚園教職員は教職員組合に、公立保育所職員は自治体労組などに、私立保育所職員は独自の労働組合に加入することが多く、労働条件や待遇に関する調整も必要となります。それぞれの業界団体が異なる政治家を支援していることも、政策推進の障壁の一つとされてきました。社会保険制度も異なり、一元化による手続きや負担の調整といった課題も指摘されています。

職員の資格と特例措置

幼保一元化を推進する上で最も重要な課題の一つが、職員の資格です。幼稚園教諭には幼稚園教諭免許状が、保育士には保育士資格が必要です。かつては資格取得のルートが大きく異なりましたが、認定こども園制度の創設以降、多くの養成機関では両方の資格・免許が同時に取得できるようなカリキュラム改定が進められています。また、既に一方の資格や免許を持っている人がもう一方を取得しやすくするための特例措置が設けられています。例えば、幼稚園教諭免許状を持つ人が保育士試験を受験する際、特定の試験科目が免除される制度が拡充されました。同様に、一定の学歴と実務経験を持つ保育士が幼稚園教員資格認定試験を受験し、免許状を取得できる道も開かれています。特に、片方の資格・免許を持ち、一定の実務経験（3年以上かつ4320時間）がある者を対象に、特例科目8単位以上を履修することで、もう一方の資格・免許を取得できる特例措置が設けられ、複数回にわたり期間が延長されています。さらに、認定こども園での一定期間の実務経験がある場合は、この特例科目の履修単位数が軽減される措置も講じられています。こうした資格取得の円滑化は、一元化された施設での多様なニーズに対応できる人材確保に不可欠です。

幼保一元化は、すべての子どもたちが質の高い教育と保育を切れ目なく受けられる環境を整備するための重要な政策ですが、施設の歴史や根拠法の違い、多様なステークホルダーの立場、そして省庁間の調整など、多岐にわたる課題の克服が求められています。認定こども園制度の運用改善や、さらなる制度設計を通じて、理想的な子ども育成環境の実現が目指されています。

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