広島の犠牲者に捧げる哀歌

広島の犠牲者に捧げる哀歌

『広島の犠牲者に捧げる哀歌』は、ポーランドの作曲家クシシュトフ・ペンデレツキによって1960年に作曲された弦楽合奏曲です。この作品は、52の弦楽器から成るオーケストラによって演奏され、約8分37秒の演奏時間を持ちます。

作曲の背景と概要

最初は「8分37秒」という名称で知られていましたが、ペンデレツキ自身は、演奏を経て広島の原爆犠牲者に捧げるメッセージとしてこの曲が新たな意味を持つようになったと語っています。彼は音響作曲法を用いており、音色やテクスチャに焦点を当てることで、自由でありながら厳密な対位法を追求しています。

この曲は、悲壮感を伴う荘厳な雰囲気を持っているため、「哀歌」と名付けられていますが、作曲当初は特に反戦を意図していたわけではありませんでした。エルハルトとの交流を通じて、1961年に現在の名称が採用された経緯があります。ペンデレツキは、1964年に広島市長宛てに手紙を送り、本作品が広島の犠牲を忘れないという彼の信念を表現するものであると願ったと伝えています。

1990年に、ペンデレツキは自ら指揮をし、広島で初演を行いました。演奏には、24のヴァイオリン、10のヴィオラ、10のチェロ、8のコントラバスが含まれ、それぞれが独特の音響効果を生み出します。音響作曲法の技法を巧みに用いたこの作品は、聴き手に強い印象を与えると同時に、視覚的な表現とも結びついています。

音楽的特徴

音楽的には、使用されている52の弦楽器が、トーン・クラスターと呼ばれる技法を用いて作曲されています。評論家のポール・グリフィスは、この作品が弦楽オーケストラとして非常に不安をもたらす効果を持っていると評しています。また、演奏中の音の持続時間に関して、ペンデレツキは音価を特定していない部分が多く、かなりの不確定要素が存在していますが、演奏時の秒数は明示されています。

さらに、八村義夫は、ペンデレツキの音楽スタイルについて、急進的な外観の中に古典的な作曲技法を大切にしていると指摘しています。伝統的なカノンやその他の作曲手法が見られる要素もあります。

影響と使用例

『広島の犠牲者に捧げる哀歌』は、映像作品の中でもその抜粋が使用されています。これには『トゥモロー・ワールド』や『ツイン・ピークス』などの作品が含まれ、その音楽的な影響力は確かなものとなっています。また、ペンデレツキ自身による多数のライブ演奏やスタジオ録音も残されています。

作曲技法としては、音響作曲法の重要性が高まりつつあった時期に、ペンデレツキをはじめとするポーランドの作曲家たちが新しい方向性を模索していたことが挙げられます。彼のこの作品は、セリー技法から音響作曲法への移行を示す大きな指標となり、多くの教育機関で教材としても使用されています。特に、音の全てのピッチが含まれる完全トーンクラスターは、作品の象徴とも言える要素です。

もう一度検索