音響作曲法

音響作曲法とは

音響作曲法（Klangkomposition）は、現代音楽における重要な作曲技法の一つです。狭義には、電子的な手段を用いて生成された音響や合成音を組織化し、構成することで音楽を作り上げる方法を指します。具体的には、電子楽器やコンピューターを用いて音色を合成し、それらを組み合わせて音楽的な構造を構築します。

しかし、音響作曲法の概念はより広範に解釈されることもあります。広義には、従来の楽器の特殊奏法（例えば、弦楽器のグリッサンドやハーモニクス、管楽器のフラッタータンギングなど）によって生み出される雑音や非楽音、あるいはトーン・クラスターのような音響的な要素を、音楽の素材として積極的に用いる作曲法も含まれます。これは、音響平面作曲法（Klangflächenkomposition）とも呼ばれ、音のテクスチャや密度、音色の変化を重視し、伝統的な旋律や和声構造とは異なる音楽表現を目指します。

音響作曲の発展

音響作曲は、当初セリエル音楽（音列技法）と密接な関係を持っていました。セリエル音楽では、音高だけでなく、音価、音量、音色などの音楽要素も一定の規則に基づいて組織化されます。電子音響の導入は、これらの要素の制御をより精密にすることを可能にし、新たな音楽表現の可能性を切り開きました。しかし、後に偶然性の音楽（偶然の要素を導入する音楽）やポスト・セリエル（セリエル音楽の厳格な規則からの脱却を目指す音楽）へと発展し、作曲家たちはより自由な音響表現を追求するようになりました。

代表的な作曲家

音響作曲の分野で重要な役割を果たした作曲家として、以下の人物が挙げられます。

カールハインツ・シュトックハウゼン (Karlheinz Stockhausen): 電子音楽のパイオニアであり、「グルッペン」などの作品で音響空間の概念を拡張しました。
リゲティ・ジェルジュ (György Ligeti): トーン・クラスターやマイクロポリフォニーといった技法を用い、複雑な音響テクスチャを創り出しました。代表作に「アトモスフェール」などがあります。
フリードリヒ・ツェルハ (Friedrich Cerha): オーストリアの作曲家で、電子音楽と伝統的な楽器を組み合わせた作品を数多く手がけました。
クシシュトフ・ペンデレツキ (Krzysztof Penderecki): 弦楽器の特殊奏法を駆使し、独特の音響世界を創り出しました。「広島の犠牲者に捧げる哀歌」などが有名です。

音響作曲の技法

音響作曲では、以下のような技法が用いられることがあります。

電子音響: 電子楽器やコンピューターを用いて音色を生成・操作する。
合成音: 複数の音響要素を組み合わせて新たな音色を作り出す。
トーン・クラスター: 半音階的に隣り合う複数の音を同時に鳴らす。
グリッサンド: ある音から別の音へ滑らかに音高を変化させる。
特殊奏法: 楽器の通常とは異なる演奏方法を用いて、新たな音色や効果を生み出す。

まとめ

音響作曲法は、現代音楽の多様性を象徴する作曲技法であり、電子技術の発展とともに進化を続けています。その幅広い解釈と多彩な表現は、音楽の可能性を大きく広げ、今日の音楽シーンに多大な影響を与えています。音響作曲の探求は、単に新しい音を作り出すだけでなく、聴覚体験そのものを刷新しようとする試みでもあります。

参考文献

長木誠司編著『作曲の20世紀Ⅱ』音楽之友社〈クラシック音楽の20世紀〉2、1993年。ISBN 978-4-276-12192-8
Edwards, J. Michele: „North America since 1920“. In: Pendle, Karin (Hg.): Women & Music: A History. Indiana University Press, 1991 (2. Aufl. 2001). ISBN 0-253-21422-X.
Erickson, Robert: Sound Structure in Music. University of California Press, 1975. ISBN 0-520-02376-5.
Composers Quartet: Nonesuch H-71280, 1973.

外部リンク

「音響作曲と組織理論」. Aufsatz von Karlheinz Essl junior. in den Darmstädter Beiträgen zur neuen Musik, Mainz 1994（ドイツ語）

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