広瀬村 (宮城県)

広瀬村：明治から昭和中期までの歴史と社会

はじめに

広瀬村は、宮城県宮城郡に1889年から1955年まで存在した村です。本稿では、広瀬村の存続期間に焦点を当て、その地理、歴史、行政、産業、教育、交通などを詳細に解説します。1955年の合併以降については、宮城町および現在の仙台市青葉区に関する資料を参照ください。


1. 地理

広瀬村は、広瀬川の上・中流域の右岸（南岸）に位置し、東西に細長い形状をしていました。村域は、江戸時代から続く作並村、熊ヶ根村、上愛子村、下愛子村、郷六村の5つの村が合併して誕生しました。広瀬川を挟んで北岸には大沢村がありましたが、広瀬村も一部地域では左岸側に張り出しており、広瀬川を境とした明確な区分は困難です。特に熊ヶ根村や郷六村は広瀬川の左岸に位置していました。また、名取郡秋保村の一部が、広瀬川支流の新川川を境に広瀬村と接していました。村の中心は愛子地区にあり、村役場もここに置かれていました。

主な山としては、鎌倉山(519m)、五ツ森(349m)、蕃山(373m)、権現森(314m)などがあり、広瀬川、青下川、斉勝川などの河川と、サイカチ沼、月山池などの湖沼が存在していました。


2. 歴史

1889年（明治22年）4月1日、上記の5村と名取郡長袋村の一部が合併して広瀬村が成立しました。村名は、村域を流れる広瀬川に由来しています。それ以前にはこの地域を「広瀬」と呼ぶことはありませんでした。村役場は当初下愛子に置かれました。

村成立以前の1880年（明治13年）、郷六など7ヶ村を管轄する戸長役場が設置されましたが、この中には現在の宮城村（後の宮城町）の大部分にあたる芋沢村と大倉村が含まれていました。広瀬川を挟んだ両岸の合併が、山越えが主要な移動手段であった当時の事情から必然ではなかった点を示しています。また、広瀬村を構成した5村は作並街道（現在の国道48号）沿いに位置するという共通点がありました。


町村合併促進法に基づき、1954年、広瀬村と大沢村は合併し、秋保村の一部地域を編入して宮城村となりました。この合併について、広瀬村住民は地理的に近い秋保村からの編入には賛成でしたが、大沢村との合併には消極的な意見も見られました。1955年2月1日、宮城村の成立とともに、広瀬村は消滅しました。


3. 人口

1889年の広瀬村の人口は2668人でした。1920年（大正9年）の国勢調査では3829人、1925年には3897人となり、人口増加が確認できます。


4. 行政

村長は以下の通りです。

庄子三之助 (1889年4月 - 1892年4月17日)
石垣彦太郎 (1892年5月 - 1895年3月31日)
庄子寅五郎 (1895年4月8日 - 1906年12月15日)
森田多蔵 (1907年2月7日 - 1919年11月13日)
岩松亥之助 (1920年3月26日 - 1920年4月9日)
高橋与一 (1920年5月12日 - 1927年3月7日)
森田多蔵 (1927年6月29日 - 1931年6月28日)
高橋与一 (1931年6月29日 - 1934年3月3日)
庄子菊松 (1934年4月7日 - 1938年4月6日)
宮野教元 (1938年4月7日 - 1940年7月18日)
石垣彦左衛門 (1940年10月22日 - 1947年1月31日)
庄子長吉 (1947年4月10日 - 1951年4月4日)
庄子平治 (1951年4月26日 - 1955年1月31日)


5. 産業

広瀬村は山林面積が広く、江戸時代から林業が盛んでした。1921年時点では、村の林野の7割が国有林でした。木材の生産に加え、薪炭材も豊富に産出していました。しかし、林業は20世紀後半に衰退しました。

農業は、地形と水利条件から畑作が中心でしたが、水田耕作も行われていました。しかし、東北地方の山間部特有の気候条件から、米作は収量に不安定さが残るものでした。1903年には3614石の米が収穫された一方、2年後にはわずか129石しか取れなかった例もあります。それでも、明治時代以降は収量の増加と冷害への耐性向上が見られました。米以外には大麦、大豆、小豆、大根などが栽培され、柿や梅などの果樹栽培、養蚕も行われていました。

20世紀前半までは馬の飼育が盛んでしたが、後に衰退しました。牛は飼育されていませんでした。

1955年の宮城町への合併まで、農具、菓子、筆、箒、藁製品などの小規模な手工業は存在していましたが、大規模な工場は立地していませんでした。


6. 教育

1952年、宮城県農業高等学校広瀬分校が広瀬中学校内に設置されましたが、1964年に廃止されました。広瀬中学校は1947年に設置され、当初は広瀬小学校内にありましたが、同年中に下愛子に移転しました。

小学校は、1873年に愛子小学校と作並小学校が創設され、1879年には上愛子小学校が設立されました。その後、合併を経て、1889年には広瀬小学校（愛子小学校）を本校とし、作並、上愛子、郷六に分教場（後に分校）が置かれる体制となりました。郷六分校は1928年に廃止されました。1941年から1948年までは国民学校と称し、この間に上愛子国民学校（1942年）と作並小学校（1948年）が独立しました。


7. 交通

鉄道は、1929年に仙台駅から愛子駅間で仙山線が部分開業し、1937年に全線開通しました。広瀬村内には陸前落合駅、愛子駅、陸前白沢駅、八ツ森駅、奥新川駅の5駅が設置されました。

道路は、江戸時代から明治時代にかけては仙台と山形を結ぶ作並街道（関山街道）が主要な交通路であり、現在の国道48号にあたります。


8. 参考文献

仙台市「宮城町誌」改訂編纂委員会『宮城町誌』本編（改定版）、仙台市役所、1988年。初版は宮城町誌編纂委員会『宮城町誌』本編、1969年。
仙台市史編さん委員会『仙台市史』通史編7（近代2）、仙台市、2009年。


9. 関連項目

宮城県の廃止市町村一覧

もう一度検索