床削り

ギュスターヴ・カイユボット「床削り」：都市労働者の新たな視点

ギュスターヴ・カイユボットが1875年に制作した油彩画「床削り」は、ブルジョワ階級の邸宅で床を仕上げる労働者たちの姿を描いた作品です。当時の美術界において、ミレーの「落穂拾い」のような農村風景や、クールベの「石割り人夫」のような地方の労働者を描いた作品は存在しましたが、都市の労働者に焦点を当てた作品は非常に稀でした。

カイユボットの「床削り」は、クールベやミレーの作品とは異なり、社会的なメッセージや倫理的な主張を排除している点が特徴的です。彼は労働者たちの肉体、仕事道具、そして室内の細部に至るまで、冷静かつ写実的に描いています。鉋やスクレーパーを使い、床を削る労働者たちの筋肉の動きや、飛び散る木屑の描写は、見る者に労働のリアリティを伝えます。

カイユボットは、アカデミックな絵画の伝統を受け継ぎ、レオン・ボナのもとで絵画を学びました。そのため、「床削り」においても、高い視点から見た遠近法や、床板の配置における伝統的な技法が用いられています。しかし、彼は伝統に固執するだけでなく、労働者の上半身を古代の英雄のように描くことで、新たな視点を加えています。

「床削り」は、1875年のサロン・ド・[[パリ]]に提出されましたが、その主題の低俗さから落選してしまいます。しかし、カイユボットは諦めず、この作品を含む2点の「床削り」を、1876年の印象派第2回グループ展に出展しました。この展覧会では、カイユボットの作品は賛否両論を呼びましたが、ルイ・エドモン・デュランティは、彼の鋭いデッサン力と都市風俗の描写を高く評価しました。一方で、エミール・ゾラは、「床削り」の描写があまりにも写真的であり、芸術性に欠けると批判しました。

カイユボットの死後、彼のコレクションは遺言によってフランス政府に寄贈され、「床削り」は1896年にリュクサンブール美術館に収蔵されました。その後、1929年にルーヴル美術館へ、そして1986年にはオルセー美術館へと移管され、現在に至ります。

「床削り」は、印象派の時代における都市生活の一断面を捉えた貴重な作品であり、カイユボットの写実的な描写と、伝統的な技法との融合が、独自の芸術世界を創り出しています。この作品は、社会的なメッセージを排しながらも、労働者の尊厳と美しさを表現し、見る者に深い印象を与えます。

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