庚午事変

庚午事変：淡路島の帰属と藩主家の対立

明治3年(1870年)、徳島藩領淡路島洲本において、蜂須賀家家臣の稲田家が襲撃されるという大事件が発生しました。これは「庚午事変」あるいは「稲田騒動」と呼ばれ、淡路島の帰属問題にまで発展する重要な出来事となりました。

稲田家と蜂須賀家の複雑な関係

稲田家は、戦国時代から続く名家で、蜂須賀家とは深く関わり合ってきました。当初は対等な関係にあった両家ですが、幕藩体制の進展とともに、稲田家は蜂須賀家に対し従属的な立場に置かれるようになります。この主従関係の変化が、両家の確執の始まりでした。

幕末期には、政治的立場も対立しました。徳島藩が佐幕派であったのに対し、稲田家は尊王派として倒幕運動に積極的に関与していました。維新後も、禄制改革における士族の扱いを巡って対立は深まりました。稲田家は陪臣として扱われたことに反発し、淡路島の独立と稲田氏の知藩事を目指すようになります。明治政府への働きかけも開始しましたが、彼らの期待は叶いませんでした。

襲撃事件とその後

明治3年5月13日、徳島藩の一部武士が稲田家の屋敷を襲撃しました。稲田家側は抵抗せず、多数の死傷者と焼失家屋が出ました。政府はこの事件を調査。徳島藩の関与の有無が問われ、結果、藩の過激派武士らが処罰を受けました。主謀者らは斬首刑（後に嘆願により切腹）に処され、その他にも多くの者が流刑や禁錮などの処分を受けました。

この事件を契機に、政府は中央集権化を進めます。徳島藩知事の蜂須賀茂韶も謹慎処分を受け、徳島藩自体は存続しましたが、稲田家の知行地であった津名郡は兵庫県に編入されました。稲田家自身は北海道の静内と色丹島への移住を命じられます。

淡路島の帰属とその後

庚午事変後、淡路島の帰属は何度も変更されました。一時、名東県に編入された後、最終的には明治9年(1876年)、兵庫県に移管されました。この事件は、淡路島の歴史、そして日本の近代化過程において重要な転換点となりました。

事件の解釈と影響

庚午事変は、単なる藩内抗争にとどまらず、幕末から明治初期にかけての社会変動、特に中央集権化の過程における地方勢力の抵抗を示す出来事でした。稲田家の悲劇は、時代の大波の中で翻弄された地方豪族の末路を象徴的に示しています。

現在、洲本市立淡路文化史料館では、庚午事変に関する資料が常設展示されています。事件の記録や稲田家家臣の手記などを通して、この歴史的事件を学ぶことができます。小説や映画といった作品も制作されており、様々な角度から庚午事変を理解することができます。

関連作品

徳永真一郎「稲田騒動始末」
船山馨『お登勢』
* 映画『北の零年』

庚午事変は、歴史の教科書にはあまり大きく取り上げられることはありませんが、日本の近代化における地方勢力と中央政府との関係、そして社会変動の複雑さを理解する上で非常に重要な事件です。

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