知行

知行（ちぎょう）とは

知行という言葉は、日本の中世から近世にかけて、領主が行使していた所領支配権を指す重要な概念です。この言葉自体は平安時代から使われ始め、時代ごとにその意味や範囲が変化してきました。日本の歴史における領主は、ヨーロッパの農奴制のように無制限に土地や人々を所有する存在ではなく、彼らは一定の権利や義務の体系を持つ存在と位置づけられています。このような権利体系が知行であり、日本の歴史における領主階層を理解する上で、この概念を理解することは非常に重要です。

知行概念の発生

知行の発生は、9世紀と10世紀に始まったとされています。この時期、日本の統治体制が律令制に依存していたものから、新興の富豪層である田堵などに支えられた名体制に変化しました。11世紀に入ると、課税制度が新たに設けられ、荘園と国衙領が再編成され、個々の収取単位に分けられるようになりました。この過程で領主という存在が新たに登場し、所領に対して支配権を行使することで、年貢や公事、夫役などの収益を得るようになったのです。この時代の支配権は「知行」「領知」「領掌」など様々な呼称で表されましたが、実際には領主の身分や地位によってその内容は異なりました。

知行国の発展

平安中期には、高級貴族や有力寺社が特定の国の租税収取権を掌握するようになり、これにより知行権が一国単位へと拡大しました。このような国を知行国と呼び、平安後期にはその数が急増しました。中世を通じて、知行や領知といった呼称は続けられ、当時の権力構造や地理的状況に応じて使い分けられました。

知行の変質と職の体系

中世期には、土地の支配権および収益権を巡って、さまざまな主体が絡まり合う重層的な権利関係が形成されていました。ところが鎌倉時代後期から、この複雑な構造が地頭の手により一元化されていく過程が見受けられます。このような一元的支配が進む中で、知行の概念は武士が主君から給付・安堵された所領を指すようになりました。知行の面積、すなわち知行高は、武士が主君に対する軍役の基準となり、戦国時代には貫高という表記が一般的に使われました。江戸時代に入ると、その基準は石高に変わり、知行高は武士の身分指標として厳格に管理されました。

知行の消滅

しかし、明治維新を迎えると、武士による土地や収益の支配は廃止され、天皇主権を基にした新しい政治体制が整えられました。この流れに伴い、知行の概念も消滅し、日本の歴史における領主や知行という言葉は、過去のものとなったのです。知行という概念の変遷を辿ることで、日本の歴史や社会構造の変化をより深く理解することができるでしょう。

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