庵原軌道

庵原軌道の歴史と特徴

庵原軌道（いはらきどう）は、かつて静岡県庵原郡辻村から庵原村金谷をつなぐ軽便鉄道でした。この路線は東海道本線の江尻駅（現在の清水駅）から、庵原金谷駅までの間に展開されていました。1909年に設立され、わずか2年半でその運命を閉じるという厳しい歴史を持ちます。

設立の背景

この鉄道は、庵原郡出身の衆議院議員で製紙会社の社長でもあった西ヶ谷可吉の発起により、地域の発展を目的として設計されました。彼を中心に、庵原村や袖師村、そして安倍郡清水町の有志たちが集まり、1909年12月13日に庵原軌道敷設特許申請が行われ、翌年には敷設免許が下りて正式に庵原軌道株式会社が設立されました。

当初は馬車鉄道としての計画が進められましたが、1911年には蒸気動力の導入とともに軌間の変更が行われ、より本格的な鉄道としての体裁を整えていきました。1913年には江尻駅から西久保までの区間が開通し、その翌年には庵原金谷まで延伸されています。

運営の課題

しかし、開業当初は期待に反して乗客数が次第に減少し、空席が目立つようになりました。また、新たな路線の建設計画も進められていましたが、土地の買収や移転交渉に手間取り、実現には至りませんでした。特に、社長の西ヶ谷が他の事業で多額の負債を抱え、資金繰りが困難になり、給料の支払いが滞るなど経営が困難になります。

1915年、ついに運転休止に追い込まれ、その後一時的に運転を再開するも、再び運転を止める事態となり、1916年6月には会社が解散、7月には全線が廃止されるという結果に至りました。

路線のデータ

廃止時点の庵原軌道は、営業キロ5.5km、762mmの軌間を持つ単線であり、列車交換設備は庵原役場前駅にありました。運転は全線を通して32分を要し、江尻発と庵原金谷発の間でそれぞれ4時28分から22時50分まで運行していました。客車としては貫通式ボギー客車が数両製造され、貨物車も仕立てられましたが、短期間での廃止により利用の機会は限られていました。

今日の軌跡

庵原軌道の廃止から長い年月が経過し、当時の遺構はほとんど残っていませんが、現代ではしずてつジャストラインが庵原線を運行しており、そのルートはかつての庵原軌道とほぼ同じです。鉄道の歴史を振り返ると、地域の発展に寄与しようとした試みが窮屈な運営環境によって短命に終わったことが、歴史的な教訓として私たちに語り掛けてきます。

もう一度検索