康芳夫

伝説的プロデューサー、康芳夫――常識を覆した波乱万丈の人生

康芳夫(こう よしお、1937年5月15日-2024年12月2日)は、日本のエンターテインメント界に多大な影響を与えた、異色のプロデューサーである。東大教育学部卒業という経歴を持ちながら、自ら「虚業家」と称し、広告代理店などの巨大資本や既成概念にとらわれることなく、常識はずれの企画を次々と世に送り出した。その奔放な生き様は多くの人を魅了し、彼の名は“伝説のプロデューサー”として語り継がれている。

康芳夫の生い立ちには、波乱に満ちた中国と日本の歴史が影を落としている。東京・西神田で、中国人の父と日本人の母の間に生まれた彼は、父親の医師としての経歴からも異文化に触れる機会が多く、型にはまらない自由な思考を育んだ。暁星小学校、海城高校を経て横浜国立大学に入学するも一年で中退、その後、東京大学に入学している。

東大在学中の1961年、五月祭の企画委員長を務めたことが、彼をプロデューサーの道へと導いた。ジャズフェスティバルや文化人によるティーチインなど、斬新な企画を成功させ、その手腕は早くから注目を集める。この経験を通して、石原慎太郎らと知り合うことになる。1962年、石原慎太郎の紹介で「赤い呼び屋」と呼ばれた神彰が主宰するアート・フレンド・アソシエーションに就職。本格的な興行師としてのキャリアをスタートさせた。

アート・フレンド時代には、ソニー・ロリンズ招聘や大西部サーカス、日本インディ開催など、当時としては画期的なイベントを数多く手がけた。しかし、康芳夫はこれらの成功を事業として継続させるのではなく、常に新しい、そして型破りな企画を求め続けた。その奔放な姿勢は、同時代のイベントプロデューサーである永島達司とは大きく異なる点であった。

独立後は、マイルス・デイヴィスの来日公演実現を目指したが、マイルスの麻薬問題による入国拒否により多額の負債を抱える。一時、出版業界で生計を立てながら、長年のパートナーである神彰と袂を分かち、単独で活動を再開する。

1970年代に入ると、康芳夫の才能は真価を発揮し始める。金平正紀の協力のもと、1972年のモハメド・アリ対マック・フォスター戦、翌年のトム・ジョーンズ来日公演など、日本中を熱狂させた大規模なイベントを実現させた。トム・ジョーンズの来日公演では、法外な入場料に反発したトム・ジョーンズ本人から公演中止を要求されるも、康芳夫はニューヨークの弁護士を雇い、法的手段に出ることで、最終的に和解に持ち込むという、彼の交渉力と大胆さを象徴するエピソードを残した。

1970年代は、康芳夫の「虚業家」としての活動が本格化していく時代でもあった。石原慎太郎を隊長とする国際ネッシー探検隊、オリバー君招聘、アントニオ猪木対[[モハメド・アリ]]戦のコーディネートなど、常識では考えられないような企画が次々と実現していく。アリとの交渉では、ブラック・ムスリムに入信するなど、並外れた行動力と交渉術で成功を収めた。

しかし、彼の挑戦はすべて成功したわけではない。1977年にはハイチでトラと空手家の試合を企画するも、動物愛護団体からの反対とアメリカの圧力により中止に追い込まれる。1979年にはアントニオ猪木対イディ・アミン大統領戦も、アミンの国外逃亡により頓挫。1982年のロサンゼルス五輪独占放映権獲得や1986年のノアの方舟探索プロジェクトなども実現には至らなかった。

康芳夫はエンターテインメント界にとどまらず、出版業界でも活躍した。澁澤龍彦編集の『血と薔薇』創刊、『家畜人ヤプー』の出版、そして『週刊プレイボーイ』における三浦和義のアナーキー人生相談のプロモートなど、多くの作品に関わっている。

近年では、『家畜人ヤプー』関連の仕事が中心となり、映画化も計画されたが、予算面で頓挫した。また、テレビ番組への出演や、ヒトクローン計画への言及など、晩年まで精力的に活動していた。

2016年には、テレビドラマ『ディアスポリス-異邦警察-』で俳優デビューを果たし、俳優としての活動も展開。康芳夫は、プロデューサーとしてだけでなく、俳優としても独自の個性を発揮した。

2024年12月2日、老衰のため死去。87歳没。彼の死は、日本のエンターテインメント界に大きな損失をもたらした。彼の生き様は、常に常識を覆し、既存の枠にとらわれない、真の自由を求め続けた証と言えるだろう。康芳夫という稀代のエンターテイナーの伝説は、これからも語り継がれていくことだろう。

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