金平正紀

金平正紀：ボクシング界のカリスマと異名を持つ男の生涯

金平正紀（1934年2月10日 - 1999年3月26日）は、日本のボクシング界に革命を起こした立役者の一人である。卓越した指導者として10人の世界チャンピオンを育成し、プロモーターとしては類まれなビジネスセンスで日本のボクシング界を牽引した。その半生は、成功と挫折、栄光と影が複雑に絡み合ったドラマチックな物語と言えるだろう。

青年期からジム設立：ケンカからボクシングへ

広島県呉市出身の金平は、中学時代、ケンカに敗れた悔しさからボクシングを始める。芸南高校を中退後、上京して野口ジムに入門。フライ級とバンタム級で活躍し、日本チャンピオンにはならなかったものの、国内ランキング1位にまで上り詰め、「目黒ジムの四天王」の一人として名を馳せた。5年間の選手生活を終え引退後はマネージャーとして活動する傍ら、1958年に恵比寿駅前にとんかつ屋「とんきん」を開業。この店でアルバイトとして働いていた19歳の海老原博幸と出会い、彼の才能を見抜いた金平は、とんかつ屋を閉め、翌1959年、杉並区永福に「金平ジム」（後の協栄ジム）を設立。この時、練習生は海老原ただ一人だった。

トレーナーとしての活躍：10人の世界王者を輩出

米屋の倉庫を改造した小さなジムで、金平は海老原と二人三脚で世界チャンピオンを目指した。そして、1963年、海老原をWBA・WBC世界フライ級王者に導くという偉業を達成する。その後も西城正三、具志堅用高、上原康恒、渡嘉敷勝男、鬼塚勝也、勇利・アルバチャコフ、オルズベック・ナザロフ、佐藤修、坂田健史と、実に10人の世界チャンピオンを育成した。これは日本のボクシング界における前代未聞の偉業と言える。

金平の指導の特徴は、選手個々の個性を尊重し、徹底したトレーニングを重視したことにある。「根性」という言葉は嫌い、トレーニングこそが全てだと信じていた。上原康恒を10年間サポートし、ボクシングに専念させ、最年長での世界チャンピオン獲得に導いたエピソードは、金平の人間味と指導力の深さを示している。また、選手との距離感を適切に保ち、尊敬される存在として接したことも、成功の要因の一つと言えるだろう。

プロモーターとしての成功：金平商法とテレビ戦略

金平はトレーナーとしての才能だけでなく、プロモーターとしても類まれな手腕を発揮した。世界タイトルマッチ級の試合を100以上もプロモートし、「日本のドン」や「顔役」の異名を取った。テレビ戦略にもいち早く着目し、日本テレビとの軋轢を乗り越え、テレビ東京で『KOボクシング』を放送開始。具志堅用高を「100年に一人の天才」というキャッチコピーで売り出すなど、メディア戦略にも長けていた。また、海外のプロモーターとの交渉にも長け、有利な条件で試合を成立させる手腕も持ち合わせていた。時には強引な手法も用い、「金平商法」と呼ばれる独自のビジネスモデルで成功を収める一方、選手とのトラブルも少なくなかった。

薬物投与事件と晩年：挫折と再起

1982年、具志堅・渡嘉敷の対戦相手の選手への薬物投与事件が発覚。金平は永久追放処分を受ける。この事件は大きな社会問題となり、金平の政治家への野望も潰えることとなる。しかし、金平は挫折をバネに再起を図る。長男の桂一郎をロシアに留学させ、ロシア人ボクサーの輸入を実現。晩年には北朝鮮からオリンピック金メダリストを招聘するなど、世界的な視野で事業を展開した。1999年、大腸がんで65歳で死去。

多くの逸話：ボクシング界に大きな足跡を残す

金平正紀の生涯には、数々の興味深い逸話が語り継がれている。1971年のルーベン・オリバレスVS金沢和良戦を「最高のファイト」として挙げ、具志堅用高を売り出すための奔走、ジョー山中やミッキー・ロークとのエピソードなど、金平の人となりとその影響力の大きさを示す数多くのエピソードが存在する。

金平正紀は、日本のボクシング界に計り知れない貢献をした人物である。彼の功績は、世界チャンピオンを輩出したことだけにとどまらず、ボクシングビジネスそのものの近代化にも大きく貢献したと言える。その波乱に満ちた生涯は、後世のボクシング関係者にとって、永遠の教材であり続けるだろう。

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