神彰

神彰：戦後日本を彩った「赤い呼び屋」の生涯

神彰（じん あきら、1922年6月27日-1998年5月28日）は、20世紀を代表する興行師にして事業家、そして国際的な芸能プロモーターでした。北海道函館市に生まれ、波乱に満ちた生涯を送った神は、戦後復興期の日本に数々の海外芸術団体を招聘し、大きな成功を収めたことで知られています。その功績から「赤い呼び屋」と称される一方、謎に包まれた部分も多く、今もなお人々の関心を集めています。

戦後復興期の芸術文化交流と「赤い呼び屋」

神彰は、自ら設立したアート・フレンド・アソシエーション（AFA）を通じて、ドン・コサック合唱団、ボリショイ・バレエ団、ボリショイサーカス、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団など、数々のソ連（当時）の芸術団体を日本に招聘しました。冷戦下のソ連との文化交流は非常に困難でしたが、神は独自のルートと交渉術で鉄のカーテンをこじ開け、日本国民に世界的な芸術作品を届けたのです。この功績から、「赤い呼び屋」という異名をとることになりました。「呼び屋」とは、海外から芸能関係者を招聘し、公演を興行する芸能プロモーターを指す言葉で、神は、大都市や地方のプロモーター、さらにはヤクザとの間を取り持つ役割も担っていたと言われています。

奔放な私生活と事業の盛衰

神彰の私生活もまた、ドラマチックでした。1962年には作家・有吉佐和子と電撃結婚。しかし、2年後に離婚しています。この離婚の背景には、AFAの経営破綻が関わっていたという説もあります。エッセイストとして知られる有吉玉青は、神と有吉佐和子の間に生まれた娘です。1967年には出版社「天声出版」を設立し、話題となった雑誌『血と薔薇』を刊行するも、数年で倒産。しかし、晩年には居酒屋チェーン「北の家族」を創業し、株式を店頭公開するまで成長させるなど、その復活劇は世間を驚かせました。

文化人サロンと多様な交友関係

神彰の自宅は、多くの文化人が集まるサロンとなっていました。三島由紀夫、吉行淳之介、堀口大學、池田満寿夫、横尾忠則、篠山紀信など、錚々たるメンバーが交流し、活発な議論が交わされたと言われています。これらの交流は、神彰の人物像をより多角的に理解する上で重要な要素です。

AFAと招聘した芸術団体

AFAは、当初は少人数でスタートしましたが、次第に木原啓允、富原孝、石黒寛、工藤精一郎といった中心メンバーが加わり、組織として拡大していきました。1956年のドン・コサック合唱団の来日公演は大成功を収め、その後も、ボリショイ・バレエ団、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団、ボリショイサーカスなど、数多くのソ連の芸術団体を招聘し、日本中に大きな衝撃を与えました。さらに、ジャクリーヌ・フランソワ、レオニード・コーガン、アート・ブレイキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズといった、欧米の著名な芸術家たちも招聘し、日本の芸術文化の発展に大きく貢献しました。

謎多き「呼び屋」と現代への影響

評論家の大宅壮一は、神彰を「呼び屋」と評しました。この「呼び屋」という存在は、戦後の日本の芸能界において重要な役割を担っていたものの、その実態は必ずしも明らかではありません。神彰は、ソ連との強いコネクションを持つ「赤い呼び屋」として知られ、その手法は後世の芸能プロモーターにも影響を与えたと考えられます。しかし、「呼び屋」は国税庁の取り締まりによって多くが廃業に追い込まれ、神彰も例外ではありませんでした。しかし、彼の功績は、戦後の日本の文化交流史に大きな足跡を残しています。

神彰の生涯と遺産

神彰の生涯は、まさに波乱万丈という言葉がふさわしいものです。成功と失敗、栄光と挫折を繰り返しながらも、常に時代の先端を走り続けました。彼の功績は、戦後の日本における文化交流の促進に大きく貢献しただけでなく、後の芸能プロモーターや文化事業家たちに大きな影響を与えました。彼の生涯は、多くの謎を残しつつも、私たちに多くの教訓と感動を与えてくれるものです。大島幹雄の『虚業成れり―「呼び屋」神彰の生涯』や、康芳夫の『虚人魁人康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』などの著作を通じて、神彰の生涯をより深く理解することができます。

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