廃語

廃語（死語）とは何か？

かつて広く使われていたものの、現在では使われなくなってしまった言葉を「廃語」または「死語」と言います。一般的には「死語」の方が多く用いられています。文献によっては、廃語と死語の定義や使い分けに違いが見られますが、完全に使われなくなった語彙を指す場合と、認知されているものの使用頻度が極めて低くなった時代遅れの語彙を含む場合があります。

日常生活における廃語

日常生活の中で廃語となった言葉は、様々な要因によって生じます。例えば、「赤紙」「銃後」「女子挺身隊」といった歴史的・社会的事象に関連する言葉や、「永久就職」のように時代変化によって意味を失った言葉などが挙げられます。また、「洗濯板」や「日光写真」のように、かつては一般的だった物品が姿を消すと、それに対応する言葉も廃れていきます。

さらに、他の言葉に置き換えられたことによって廃語となるケースもあります。「写真機」や「幻灯機」といったカタカナ語の例や、「エゲレス」が「イギリス」に変わったように、表記の変化によって廃れていくケースも見られます。

言葉の意味の一部だけが廃れることもあります。歴史学者である笠松宏至氏の指摘によると、室町時代の「中央」には「途中」という意味もあったそうですが、現代の研究者にとっても理解が難しい例となっています。

また、対義語が廃語になったことで、区別する必要がなくなり、廃語となった複合語もあります。「直通電話」や「ブロードバンド」、「マキシシングル」などがその例です。これらの言葉は、技術革新によって別の言葉に取って代わられました。

流行語もまた、時間の経過とともに廃語となる傾向があります。しかし、完全に使われなくなるわけではなく、特定の世代の間では未だに使用されている場合もあります。「ナウなヤングにバカウケ」のような言葉は、もはや使われないどころか、あえて使用することで場を盛り下げる効果を狙うなど、新たな文脈で用いられることもあります。

一般的に古い時代の言葉は若い世代の認知度が低い傾向がありますが、例外もあります。戦時中の言葉である「防空壕」「闇市」「赤紙」などは、1980年代の流行語「なめ猫」よりも若い世代の認知度が高い傾向があります。これは、戦時中を題材にしたドラマや映画でこれらの言葉が頻繁に使用されることが要因と考えられます。

時代を表すものとしての廃語

評論家である小林信彦氏の著書『現代＜死語＞ノート』では、1950年代半ばから20年間で流行したのち消え去った言葉が年代順に紹介されています。小林氏は、これらの死語がそれぞれの時代の姿を鮮やかに伝えていると述べています。廃語は、過去の文化や社会状況を反映する重要な手がかりとなるのです。

専門用語における廃語

科学分野などの専門用語にも、廃語が存在します。分野の進歩や概念の変化、精密化、理解の深まりによって、かつては使われていた言葉が意味をなさなくなることがあります。

例えば、生物分類学では、当初は人間に近い生物が中心に研究されたため、動物では脊椎動物、植物では種子植物のみが詳細に分類されていました。それ以外の生物は「無[[脊椎動物]]」や「隠花植物」といったくくりでまとめられていましたが、現在の生物学ではこれらの分類は必ずしも意味をなさなくなっています。しかし、「無[[脊椎動物]]」は、その簡便さから現在も使われています。

誤っていたことが判明した仮説や用語もまた廃語となります。「フロギストン説」や「天動説」などがその例です。逆に、正しいことが判明しても、常識となれば専門用語としては使われなくなります。「地動説」や「後成説」などが該当します。

廃語の例

廃語・死語の基準は曖昧で、世代や分野、個人によって認識が異なります。そのため、どの言葉が廃語であるかについては、明確な線引きは難しいです。様々な「死語辞典」が存在しますが、それらは必ずしも学術的な基準を満たしているとは限りません。

以下に、いくつかの廃語の例を示します。

アベック: 現在では「カップル」が一般的ですが、「アベックホームラン」など、特定の文脈では未だに使用されます。
アミケット: アイドル・ミニコミ・マーケットの略。平成初期のアイドルファンの間で使われていました。
シミーズ: 女性用の肌着。
チョベリグ/チョベリバ: 「超ベリー・グッド/バッド」の略。
ツッパリ: 不良少年。現在では「ヤンキー」が一般的です。
トランジスターグラマー: 小柄で魅力的な女性。1960年代頃に使われていました。
ナウい: 1980年代の流行語。「現代的」という意味。
ハイソ/ハイソカー: 上流階級や高級感を表す言葉。
ボイン: 乳房の大きな女性。現在は「巨乳」が一般的です。
婦女暴行: 強姦の婉曲表現。現在は「強姦」や「強制性交」が一般的です。
メンゴ: 「ごめん」の字を逆にしたもの。
モボ・モガ: 「モダンボーイ・ガール」の略。1920年代の流行語。
ヤッピー: 都市部の上級会社員。
ヤング: 若者。完全に廃語ではありません。

これらの例からもわかるように、廃語は時代や社会状況を反映した言葉であり、その変化を跡付ける上で貴重な資料となります。それぞれの言葉がどのような文脈で使用され、なぜ廃れていったのかを考察することで、歴史や文化に対する理解を深めることができるでしょう。

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