廣瀬通孝

廣瀬 通孝 氏：バーチャル・リアリティ研究の先駆者

1954年5月7日、神奈川県に生まれた廣瀬通孝（ひろせ みちたか）氏は、日本のシステム工学分野における傑出した研究者であり、東京大学名誉教授の称号を有しています。専門はシステム工学、機械力学、制御工学に及びますが、特にバーチャル・リアリティ（VR）研究においては、その草分け的存在として国内外に広く認知されています。

学歴と東京大学でのキャリア

廣瀬氏は、1977年に東京大学工学部産業機械工学科を卒業後、同大学院に進学し、1982年に博士課程を修了しました。この際、「分散型システムの最適構造化に関する研究」によって工学博士号を取得しています。学位取得と同年に東京大学工学部専任講師に就任。その後、1983年には同助教授へと昇任しました。1991年には工学部機械情報工学科の助教授として、その教育・研究活動の幅を広げます。さらに1999年には、東京大学先端科学技術研究センター教授、そして情報理工学系研究科教授を兼任するなど、長年にわたり東京大学の教壇に立ち、多くの後進の指導にあたるとともに、革新的な研究を推進しました。2020年に東京大学を定年退職し、名誉教授となりました。

研究業績と社会への貢献

廣瀬氏の研究活動は、多岐にわたる専門分野の知見を融合させたものです。システム工学、機械力学、制御工学の確固たる基盤を持ちつつ、特に当時まだ黎明期にあったバーチャル・リアリティの研究にいち早く着手し、この分野の学術的確立と発展に大きく貢献しました。その先駆的な研究成果は、現在のVR技術の基盤の一部をなしています。

また、学術団体においても指導的な役割を果たしており、2010年には日本バーチャルリアリティ学会の会長を務め、国内のVR研究コミュニティの発展を牽引しました。

主な受賞歴

廣瀬氏の研究功績は、国内外で高く評価されています。主な受賞は以下の通りです。

1995年：東京テクノ・フォーラムゴールド・メダル賞
2004年：大川出版賞（共著『シミュレーションの思想』に対して）
2015年：IEEE VGTC 2015 Virtual Reality Career Award

著作活動

廣瀬氏は、自身の研究成果や思想を広く伝えるため、多数の著書や論文を発表しています。特にVRに関する著書は、専門家だけでなく一般読者にも分かりやすく解説されており、この分野の啓蒙にも寄与しました。

主な著書

『技術はどこまで人間に近づくか 生体化するテクノロジーと21世紀』（PHP研究所、1992年）
『バーチャル・リアリティ』（産業図書、1993年）
『バーチャルリアリティ』（オーム社 ヒューマンコミュニケーション工学シリーズ、1995年）
『電脳都市の誕生 バーチャルリアリティとアーバンデザイン』（PHP研究所、1996年）
『バーチャル・リアリティって何だろう 仮想と現実のあいだ』（ダイヤモンド社、1997年）
『岩波講座現代工学の基礎 /システムの構造と特性』（岩波書店、2001年）
『空間型コンピュータ 「脳」を超えて』（岩波書店 双書科学/技術のゆくえ、2002年）
『岩波講座ロボット学 システムの構造と特性』（岩波書店 シリーズ現代工学入門、2005年）

主な共著・編著

『バーチャル・テック・ラボ 「超」現実への接近』（舘暲共監修・著、工業調査会、1992年）
『VR世界の構成手法 VR環境の創世・演出・コンピューティング』（バーチャルリアリティの基礎 編、培風館、2000年）
『シミュレーションの思想』（小木哲朗、田村善昭共著、東京大学出版会、2002年）
『ロボットインフォマティクス』（安西祐一郎ほか共著、岩波書店、2005年）
『ヒトと機械のあいだ ヒト化する機械と機械化するヒト』（編著、岩波書店 シリーズヒトの科学、2007年）

主な翻訳

* サンドラ・K.ヘルセル、ジュディス・P.ロス編『バーチャルリアリティ 理論・実践・展望』（監訳、海文堂出版、1992年）

廣瀬通孝氏は、日本のバーチャル・リアリティ研究の礎を築き、その後の発展に不可欠な貢献を果たした研究者・教育者として、その功績は長く記憶されるでしょう。

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