舘暲

舘 暲（たち すすむ）は、1946年1月1日生まれの日本のシステム工学者、工学博士です。東京大学名誉教授。ロボット工学、バーチャルリアリティ（VR）、計測工学、制御工学といったシステム情報学の分野における主要な研究者として知られ、特にテレイグジスタンスやハプティクス（触覚技術）など、人間と情報環境の革新的な融合を探求する研究で多大な貢献をしました。

経歴

東京都出身。1964年に都立戸山高校、1968年に東京大学工学部計数工学科を卒業。1973年、同大学院博士課程を修了し、工学博士号を取得しました。東京大学助手、通商産業省工業技術院機械技術研究所研究員を経て、1989年より東京大学助教授、その後教授を歴任。先端科学技術研究センター、工学部、大学院情報理工学系研究科に所属しました。マサチューセッツ工科大学客員研究員経験も持ちます。2009年に東京大学を定年退職し、名誉教授となりました。その後も慶應義塾大学や東京大学高齢社会研究機構などで活動を続けています。

研究活動と主な業績

舘氏の研究の中心は、人間が物理的な制約や遠隔の壁を超えて活動できる世界の実現にあります。その象徴が、長年提唱・研究してきた「テレイグジスタンス」です。これは、遠隔地のロボットなどを介し、あたかもその場に「存在」するかのように感じ、活動できるという独創的な概念であり、VR研究の源流の一つとも位置づけられます。他に、触覚を扱う「ハプティクス」、現実空間に映像を重ねる「再帰性投影技術」、臨場感あるコミュニケーション技術なども主要なテーマです。

盲導犬ロボットMELDOG、光学迷彩、透明コックピット、裸眼立体視や触覚提示技術、触原色といった数々の革新的なシステムや概念を生み出しました。これらは人間の感覚・知覚を拡張・代替する試みです。近年は、リアルタイム・リモート・ロボティクス（R3）を核としたユビキタス環境との融合による新たな可能性を探求しています。

教育と学会への貢献

次世代の研究者・技術者の育成にも情熱を注ぎました。1993年に創設した「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト（IVRC）」は、学生の斬新なアイデアを形にする重要な場となり、多くの人材を輩出しています。学会活動では、日本バーチャルリアリティ学会の初代会長、計測自動制御学会会長などを歴任し、関連分野の発展に貢献。日本ロボット学会設立にも携わりました。また、サイバネティクスの思想を継承する「サイバネティクス研究会」を主宰し、研究者間の交流と哲学の共有を図っています。

人物像と背景

舘氏の学問への歩みには、幼少期に母方の祖父から受けた影響が深く関わっています。祖父は、東大外科学教授である佐藤三吉の甥であり、学問を尊ぶ家庭環境で育ちました。祖父から聞かされた佐藤三吉の話は、氏の知的好奇心を刺激したようです。大学での進路選択に迷っていた時期、偶然耳にしたノーバート・ウィーナーの著書朗読が決定的な転機となり、サイバネティクス研究を志すことを決意しました。この出会いが、後の革新的な研究へと繋がっていきます。次男の舘知宏氏も、東京大学教授として折り紙工学分野で活躍しています。

著作

専門書から一般向け解説書まで多数の著作があります。主な単著に『人工現実感』、『バーチャルリアリティー入門』、国際的な著書『Telexistence』など。氏の研究成果や哲学は広く伝わっています。

もう一度検索