建設業設計部

日本のゼネコン設計部：歴史、役割、そして人材

日本の建設業界において、ゼネコン（総合建設業者）や施工会社に内包される建築設計組織「建設業設計部」は、独特の存在感を示しています。本稿では、その歴史、役割、そして設計部から巣立った著名な建築家たちについて、詳細に考察します。

設計施工一貫体制と建設業設計部の誕生

日本の建築設計は、かつては施工者である大工棟梁が担うのが一般的でした。しかし、近代化が進むにつれ、設計と施工を分業する体制への移行が模索されるようになります。この流れの中で、設計施工一貫体制の確立を目指したゼネコンの取り組みが注目を集めます。清水建設は、明治時代に工科大学出身の技術者を採用し、「技師長設計」という形で設計部門を設立。これが現在の設計部の原型となりました。その後、多くの優秀な人材が設計部に集まり、設計部の組織力は強化されていきます。他社も同様の動きを見せ、設計部は次第に規模を拡大し、今日のゼネコンにおける重要な役割を担うようになりました。

一方で、1887年設立の日本土木会社（後の大成建設）は、設立当初から大学卒の工学士を採用し、設計込みの請負体制を目指しました。しかし、会計法の制定により、当初の計画通りにはいかず、紆余曲折を経て発展を遂げていきます。

建設業設計部の役割と建築界への影響

建設業設計部の主な業務は、建築物の設計です。日本の建築士法では、ゼネコンは設計組織を設け、一級建築士を社員として雇用することで設計業務を行うことができます。これは、諸外国の独立系建築家とは異なるシステムです。

1960年代には、建築史家の村松貞次郎氏による「ルポルタージュ・設計組織を探る」という連載が話題を呼びました。村松氏は、建設会社の設計部を「明日の建築界のチャンピオン」と評し、設計施工一貫体制の優位性を主張しました。これにより、建築界で大きな論争が巻き起こりました。 この論争は、建設業設計部の存在意義や役割について、改めて問いかける契機となりました。

建設業設計部は、単なる設計組織にとどまらず、技術開発や施工管理にも深く関わっています。ゼネコンは、設計から施工までを一貫して行うことで、コスト削減や品質向上を実現できます。設計部はその過程において重要な役割を担い、日本の建設業界の発展に大きく貢献してきました。

著名な出身者たち

多くの建設業設計部からは、著名な建築家が輩出されています。清水建設からは、秋元和雄氏、坪井善勝氏など、大成建設からは新家孝正氏、日本土木会社（大成建設の前身）からは辰野金吾氏など、数多くの建築界の巨匠が名を連ねています。戸田建設からは隈研吾氏、大林組からは谷口吉郎氏、鹿島建設からは多くの著名な建築家たちが活躍しています。また、竹中工務店は、独自のプリンシパル・アーキテクト制度を設け、多くの才能ある建築家を育成・輩出しました。 これらの建築家は、それぞれ独自の建築スタイルを確立し、日本の建築界に多大な影響を与えました。

関連団体と今後の展望

社団法人建築業協会（BCS）は、1975年から設計部会を設置し、各社の設計部門責任者が集まり活動を展開しています。 建設業設計部は、建築業界の変遷や技術革新に対応しながら、今後も日本の建築文化の発展に貢献していくでしょう。

参考文献

新建築1968年12月号「建設業設計部の静かな意欲」村松貞次郎
現代建築をつくる人々、設計組織ルポ　1963、世界書院　浜口隆一、村松貞次郎
* 建築雑誌 特集、「建築家・そのあるべき姿とありうる姿」 1995年7月号

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