建部綾足

建部綾足：江戸時代中期を彩った多才な文化人

建部綾足（たけべ あやたり、1719年-1774年）は、江戸時代中期に活躍した稀有な人物です。俳人、小説家、国学者、そして絵師として、それぞれの分野で高い評価を得ました。さらに、片歌の復興に尽力した事でも知られており、その多様な才能と波乱に満ちた生涯は、後世に多くの影響を与え続けています。

華麗なる出自と奔放な若き日々

1719年、陸奥国弘前藩家老の次男として江戸に生まれ、弘前で育ちました。父方の祖母は山鹿素行の娘、母方の祖父は大道寺友山という、文化人一家に育ちました。幼少期から文武両道に励み、特に槍術に秀でていたと言われています。しかし、20歳の時、兄の妻との不義密通が原因で家から追放されるという波乱の人生を送ることになります。その後、出家するものの、まもなく還俗。その後の人生は、まさに自由奔放という言葉がふさわしいほどの奔放さで彩られます。

俳諧の道と全国を巡る旅

追放後、建部綾足は俳諧の道へと進みます。蕉門の志太野坡、伊勢派の彭城百川、和田希因、中森梅路らに師事し、葛鼠、都因、涼袋など数々の俳号を用いながら、各地を巡りながら研鑽を積んでいきました。武蔵国埼玉郡小林村には3年間滞在し、当地の文人墨客と交流を深め、やがて江戸浅草に吸露庵を構え、俳諧の活動の拠点を築きました。その後、門弟の援助を得て上方へ遊学し、長崎にも滞在。熊代熊斐や石崎元徳に師事し、南蘋派の画法を学びました。

画業と藩主への仕官

上方滞在の後、大阪で画業に励み、その後江戸に戻ります。35歳の時、母の勧めで中津藩主奥平昌敦に仕官。藩命により再び長崎へ行き、費漢源、李用雲らに師事して山水画や墨竹画を学びました。この頃、目の病気にかかったのか、南蘋派の緻密な彩色画よりも、淡雅な筆致の作品を好むようになりました。孟喬、毛倫、建綾岱、建長江、寒葉斎といった画家の号を用いて作品を発表し、画家としても高い評価を得ていきました。

片歌の提唱と国学への傾倒

中津藩を辞した後、遊女の紫苑と結婚。44歳で『寒葉斎画譜』を刊行。45歳の時、片歌を提唱し、「綾足」の号を用いるようになりました。賀茂真淵に入門し、国学を学び、さらに歌道の冷泉家にも入門。多様な文化への関心を示しました。そして、49歳で初の小説『西山物語』を著します。この作品は、実話を基にしているものの、後に上田秋成から内容を批判されています。

片歌の普及と晩年

京都に移り住み、片歌と国学を講義。浅草出身の僧侶金龍道人とも親交を深めました。52歳には、片歌の祖であるヤマトタケルノミコトの能褒野陵前に片歌碑を建立。花山院常雅から『片歌道守』の称号を授かりました。晩年は京都で万葉集や古今集を講義するなど、国学の普及にも尽力しました。55歳、旅行中に病を得て、翌年江戸で亡くなりました。

多彩な著作と絵画作品

建部綾足は、俳諧、小説、国学に関する著作、そして絵画作品など、膨大な作品を残しました。俳諧においては『希因涼袋百韻集』など多くの作品集があり、小説では『西山物語』、『本朝水滸伝』などがあります。国学の分野では、『片歌草のはり道』、『片歌道のはじめ』など片歌に関する多くの著作を残し、後世の研究者にも大きな影響を与えました。絵画作品も多数存在し、南蘋派風の作品から、淡雅な筆致の作品まで、その画風は多様性に富んでいます。

建部綾足の功績と影響

建部綾足は、俳人、小説家、国学者、絵師という多様な顔を持つ、江戸時代中期を代表する文化人でした。その生涯は、奔放さと繊細さ、そして多才な才能が織りなすドラマチックなものでした。彼の作品や活動は、後世の文化に多大な影響を与え、現在でも多くの研究者によってその業績が評価され続けています。彼の残した膨大な作品群は、現代においても、多角的な視点から江戸時代の文化を理解する上で、貴重な資料として活用されています。

もう一度検索