弓削皇子

弓削皇子について

弓削皇子（ゆげのみこ）は、天武天皇の第九皇子であり、冠位は浄広弐に叙せられた人物です。生年については不明ですが、多くの学者が天武天皇2年（673年）に誕生したと考えています。この推定は、大宝律令に基づく蔭位の制度から導かれたものですので、信憑性は比較的高いとされます。

弓削皇子は持統天皇7年（693年）に、同母兄の長皇子と同時に浄広弐に格付けされました。持統天皇10年（696年）には、太政大臣である高市皇子が亡くなった際の皇嗣選定会議において発言を試みましたが、葛野王によって叱責されました。このことから、彼は長皇子を推薦しようとしたのではないかと考えられています。文武天皇3年（699年）7月21日に、皇子は母や兄に先立って亡くなりました。推測される生年から逆算すると、享年は27歳という若さでした。

弓削皇子の歌と文化的影響

弓削皇子は詩歌において特に際立った存在であり、『万葉集』には彼の歌が8首収められています。これは天武天皇の皇子たちの中でも最も多く、彼の文化的な影響力を物語っています。彼が紀皇女を思い作った歌や、額田王との交流を示す問答歌などがその一例です。

さらに、柿本人麻呂の歌集にも、弓削皇子に献上された5首の歌が残されており、彼と他の歌人との交流があったことが伺えます。このように、弓削皇子は歌を好み、詩歌を通じて人々と心を交わす皇子であったと言えるでしょう。しかし、神田秀夫によって『万葉集』の編者の一人とされているものの、その説は現在ほとんど支持されていません。

歌の例

『万葉集』の中には、以下のような彼の歌があります。これらは特に紀皇女を思う内容になっています。

1. 吉野川行く瀬の早み しましくも 淀むことなく ありこせぬかも
2. 我妹子に 恋ひつつあらずは 秋萩の 咲きて散りぬる 花にあらましを
3. 夕さらば 潮満ち来なむ 住吉の 浅香の浦に 玉藻刈りてな
4. 大船の 泊つる泊まりの たゆたひに 物思い痩せぬ 人の児故に

特に興味深いのは、紀皇女が詠んだ歌にも、弓削皇子の影響が表れています。これにより、彼らの関係が豊かなものであったことが伺えます。

その他の伝承と系譜

後世において、弓削皇子に関する異なる説も存在します。梅原猛著の『黄泉の王』では、彼が高松塚古墳の被葬者に比定され、また紀皇女との秘密の関係が持統天皇の怒りを買い、彼が処罰されたのではないかとも推測されています。ただし、これには確証が存在しないため、慎重に扱う必要があります。

また、弓削道鏡との血縁を主張する伝説も見られますが、これも証拠が不明瞭です。

弓削皇子の系譜は、父が天武天皇、母が大江皇女（父が天智天皇）であり、同母兄には長皇子がいます。このように、彼の家族背景もまた、当時の天皇家における重要な位置を示しています。

まとめ

弓削皇子は、その短い生涯の中で多くの歌を通じて文化に影響を与えた人物です。彼の作品や伝説は、万葉集を通じて今日まで受け継がれています。彼の歌には、個人の情感や母国への思いが色濃く反映されており、文学的にも重要な位置を占めています。

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