額田王

飛鳥時代の歌人、額田王：謎に包まれた生涯と美しい歌の数々

額田王（ぬかたののおおきみ）は、7世紀の飛鳥時代を生きた日本の皇族にして、類まれな才能を持つ歌人でした。その生涯は謎に包まれていますが、『万葉集』や『日本書紀』などの史料から、その足跡をたどることができます。

皇族としての出自と結婚

額田王の出自については諸説ありますが、『日本書紀』によると、鏡王の娘であり、大海人皇子（後の天武天皇）の妃であったとされています。鏡王については史料が乏しく、皇族であったと推測されているものの、詳しいことはわかっていません。額田王の生年は不明ですが、孫の葛野王の誕生から逆算すると、631年から637年頃ではないかと推定されています。出生地についても、大和国平群郡額田郷や島根県東部など、複数の説があります。

額田王は天武天皇との間に十市皇女をもうけました。天武天皇崩御後、持統天皇の吉野行幸に際して弓削皇子と歌を交わした記録が残っており、60歳前後までは生存していたと推測されます。没年は690年頃とされています。

天智天皇との関係と『万葉集』の歌

額田王は天武天皇の妃でしたが、天智天皇（中大兄皇子）とも関係があったという説が根強くあります。この説の根拠として、主に『万葉集』に収められている二首の歌が挙げられます。

「茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
「紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも」

これらの歌は、額田王と天智天皇、天武天皇の三角関係を示唆するものとして解釈されてきました。しかし、近年の研究では、宴席での座興の歌であった可能性も指摘されており、確証はありません。

額田王の作とされる歌

『万葉集』には、額田王の作品として長歌3首、短歌10首（重出歌を含むと12首）が収録されています。これらの歌には、自然の情景や、天皇への想いや、恋の苦しみなど、様々な感情が表現されています。彼女の歌は、情景描写の美しさや、繊細な感情表現が特徴です。歌の解釈をめぐっては、現在でも議論が続いています。例えば、「莫囂円隣之大相七兄爪謁気わが背子(せこ)がい立たせりけむ厳(いつ)橿(かし)が本(もと)」は、今日でも解読不能な歌として有名です。

臣籍降下説と絶世の美女説

額田王は臣籍降下し、藤原大嶋と再婚したという説や、絶世の美女であったという説など、様々な逸話が残されています。しかし、これらの説は史料的な裏付けが乏しく、確証はありません。額田王の容貌や生涯については、史料が少なく、想像の域を出ません。後世の創作や解釈によって、彼女のイメージが作られてきた可能性も高いです。

後世への影響

額田王は、多くの小説、漫画、舞台作品などで取り上げられ、現代でも多くの人に知られています。彼女の生涯や歌は、人々の想像力を掻き立て、様々な解釈を生み出してきました。彼女の歌は、現代においても、人々の心に深く響き、その魅力は色あせることがありません。彼女の生き様と、美しく、そして謎めいた歌は、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

まとめ

額田王は、飛鳥時代の皇族であり、優れた歌人でした。彼女の生涯は謎に包まれた部分も多いですが、『万葉集』に残された歌の数々は、彼女の人物像や当時の社会状況を知る上で貴重な資料となっています。今後の研究によって、さらに彼女の生涯の謎が解き明かされることを期待したいです。

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