弘道館

弘道館

弘道館は、江戸時代後期に常陸国水戸藩によって設立された藩校であり、現在の茨城県水戸市三の丸に位置しています。この藩校は、水戸藩第9代藩主である徳川斉昭によって、天保12年（1841年）にその基礎が築かれました。水戸城の三の丸内に設けられ、それ以前は重臣たちの屋敷があった場所でした。

現状

現在、弘道館の敷地は都市公園法に基づき「弘道館公園」として整備されています。保存されている旧弘道館は国の特別史跡に指定されており、その中でも正庁、至善堂、正門が重要文化財として保護されています。敷地面積は約10万5千平方メートルと広大で、藩校としては全国最大規模を誇りました。旧弘道館の建物は有料で公開されており、その管理は茨城県が行っています。ただし、文化財としての価値は高いものの、博物館法上の博物館とはされていません。

東日本大震災では甚大な被害を受けましたが、修復作業を経て、その姿を取り戻しました。特に『弘道館記』を刻んだ石碑は、震災前の姿に復元されています。2019年には、北柵御門と土塁、通路が復元され、一般公開されています。弘道館は、文化庁が認定する日本遺産「近世日本の教育遺産」の構成文化財の一つにもなっています。

沿革

弘道館は、1841年7月に完成し、仮開館しました。本格的な開館は1857年です。初代教授頭取には会沢正志斎と青山拙斎が就任し、戸田蓬軒が建造を担当、学校奉行には安島帯刀が任命されました。八卦堂に設置された『弘道館記』には、藤田東湖が草案した建学の精神が漢文で記されています。教育内容は武道だけでなく、諸科学や学問も幅広く網羅していました。特に、水戸藩が編纂した『大日本史』の影響を受けた水戸学の中心的な舞台となりました。

藩校としては異例の規模を持ち、卒業という概念を設けず、年齢に関わらず誰もが学べる場でした。入学には一定の学力が必要とされる文館と、無試験で入学できる武館がありました。しかし、家格に応じた出席日数の制限があり、人材育成において身分制度も反映されていました。

明治維新期には、水戸藩内で改革派と保守派の争いの舞台となり、弘道館もその影響を受けました。徳川慶喜が一時的に身を寄せたこともありましたが、その後の内戦により、多くの建物が焼失しました。1872年に閉鎖された後、公園として整備されました。

弘道館が所蔵していた蔵書は国有化され、後に設立された旧制水戸高等学校に引き継がれましたが、水戸空襲で焼失しました。一部の蔵書は、関係者によって設立された自彊舎によって保存され、現在は茨城県立歴史館が管理しています。

また、弘道館には設立当初から多くの梅が植えられ、その由来が『種梅記』に記されています。現在も約60品種800本の梅が植えられており、梅の名所として知られています。偕楽園は、弘道館と対をなす心身保養の場として作られました。

文学作品の中の弘道館

多くの文学作品にも弘道館は登場しています。

森鷗外『伊沢蘭軒』：弘道館への出席に関する記述が登場します。
正岡子規『墨汁一滴』：弘道館を描いた絵について言及しています。
正岡子規『寒山落木』：「烈公の冠正し梅の花」という句があります。
島崎藤村『夜明け前』：藤田東湖や徳川慶喜と弘道館のつながりが描かれています。

園内施設

正門

本瓦葺の四脚門で、弘道館戦争時の弾痕が残っています。

正庁（学校御殿）

弘道館の管理棟であり、文館と武館を併設しています。北東には至善堂があります。

至善堂

藩主の控室や子弟の学習の場として使われました。襖には和歌の扇面が掲げられていました。

孔子廟

儒教の教えに基づき建立されましたが、焼失後に再建されました。

八卦堂

『弘道館記』を刻んだ石碑を納めた覆堂です。戦災で焼失後、再建されました。

学生警鐘

時を知らせるために使われていた鐘で、斉昭の直筆が刻まれています。レプリカが作製され、実物は展示されています。

鹿島神社

鹿島神宮から分祀された神社で、伊勢神宮から譲り受けた旧殿が移築されています。

種梅記碑

斉昭が梅を植えた由来を記した碑で、文字が風化しています。

弘道館記碑

弘道館の建学の精神を記した碑で、八卦堂に設置されています。東日本大震災で損傷し、修復されました。

要石歌碑

徳川斉昭による歌が刻まれています。

脚注

参考文献

但野正弘『水戸烈公と藤田東湖『弘道館記』の碑文』（錦正社、2002年）

関連項目

徳川斉昭
水戸学
藤田東湖
偕楽園
水府流剣術
水戸東武館
遠山重寛

外部リンク

弘道館公園（茨城県営都市公園オフィシャルウェブサイト）
弘道館 (kodokanpark) - Facebook
国指定文化財等データベース
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