弦楽セレナード (エルガー)

弦楽セレナード ホ短調 作品20

この作品は、英国の作曲家エドワード・エルガーが1892年に手がけた弦楽合奏のための楽曲です。正式名称は「Serenade for Strings in E minor, Op. 20」といい、エルガーのキャリア比較的初期において、広く認知され評価された楽曲の一つとして知られています。

成立の背景と経緯

作曲当時の1890年代初頭、エルガーは故郷ウスターシャーでアマチュア音楽家たちを指導したり、指揮をしたりしながら活動していました。本作の原型とされるのは、彼が1888年にウスターのアマチュア団体と共に初演した「弦楽合奏のための3つの小品」であると推測されています。この「3つの小品」は、「春の歌」（アレグロ）、「エレジー」（アダージョ）、「フィナーレ」（プレスト）という構成を持っており、後の「弦楽セレナード」もこれと同様の3楽章形式を取っています。

作品が「セレナード」として現在の形に完成したのは1892年5月のことでした。この作品は友人のW・H・ウィンフィールドに献呈されましたが、同時にエルガーは3回目の結婚記念日の贈り物として妻であるキャロライン・アリスにも贈っています。

初演について

作品の初演は段階的に行われました。まず、第2楽章のみが1893年4月7日にヘリフォードで披露されました。全曲としての初演はそれから時を経て、1896年7月23日にベルギーのアントウェルペンで行われています。作曲家エルガーが国際的な名声を確立してからのロンドン初演は、1905年3月5日にベヒシュタイン・ホールで、エルガー自身の指揮によって行われました。

楽曲の構成

全3楽章からなり、全体の演奏時間は約12分から13分程度です。

第1楽章：アレグロ・ピアチェヴォーレ

ホ短調、8分の6拍子による三部形式です。楽章冒頭、軽やかで快活なリズムがヴィオラによって提示され、これに乗るようにヴァイオリンが明快な主要旋律を奏で始めます。主旋律はリズムを変えながら展開し、続く経過部では、冒頭のヴィオラのリズムを伴って下行型の旋律が第2ヴァイオリンやチェロによって示されます。やがて楽曲はロ短調の中間部へ移り、ここでは第1ヴァイオリンが表情豊かに歌い上げる旋律を奏でます。小さな発展を経て、全ての楽器が一度盛り上がった後、再び冒頭のヴィオラのリズムが現れ、再現部へと移行します。再現部では提示部と同様の主題が扱われ、次第に高まりを見せた後、ヴァイオリンの主旋律を回想するように静かに楽章を閉じます。

第2楽章：ラルゲット

ハ長調、4分の2拍子。この楽章の核となる情緒あふれる旋律が、まず第1ヴァイオリンによって提示されます。この旋律は第2ヴァイオリン、ヴィオラへと受け継がれ、さらに新たな旋律を生み出すかのように展開されていきます。しばらくはこの旋律の変奏が続き、その後、オクターヴで奏される第1ヴァイオリンの主題が豊かな表情をもって現れます。この部分は、第2ヴァイオリンとヴィオラによる細やかな分散和音によって彩られます。やがて全ての楽器が音量を落とし、最初のモチーフがヴィオラによって再び奏でられ、それが楽器間を移りながら弱音で消えていくように、この美しい楽章を終えます。

第3楽章：アレグレット

ト長調からホ長調へ転じ、拍子も8分の12拍子から8分の6拍子へと変化します。3小節の短い序奏の後、生き生きとしたヴィオラの旋律が登場します。この旋律はカノン風に第1ヴァイオリン、チェロ、コントラバスへと引き継がれ、その後、第2ヴァイオリンとヴィオラによって展開されます。さらに第1ヴァイオリンに戻ってオクターヴで奏され、クライマックスを形成します。一度静まった後、再び序奏が再現され、楽章の前半を閉じます。後半はホ長調に変わり、第1楽章の冒頭で聴かれた軽やかなリズムが第2ヴァイオリンに現れ、第1楽章の中間部で奏されたヴァイオリンの旋律も回想されます。第1楽章のリズムが各パートに繰り返し刻まれながら、緩やかに上行する音型が主和音の頂点に達すると、そのままの和音の響きを保ちつつ、遠ざかるように静かに全曲の幕が閉じられます。

この作品は、エルガー初期の瑞々しさと後の大家の片鱗を示す、親しみやすい名曲として今日でも頻繁に演奏されています。

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