弦楽六重奏曲 (ドヴォルザーク)

弦楽六重奏曲 イ長調 作品48（B. 80）

アントニン・ドヴォルザークによって1870年代後半に生み出された、彼の重要な室内楽曲の一つです。特に1878年5月を中心に作曲されました。この作品は、ドヴォルザークの創作活動において非常に意義深く、彼の作品としては初めて国外で演奏されたものとしても知られています。

作品の背景

1875年から1879年にかけての期間は、ドヴォルザークの生涯において大きな転換期でした。オーストリア帝国政府から奨学金を得たことで、彼は生活の心配なく作曲に没頭できるようになり、その結果、非常に多作な時期を迎えます。この『弦楽六重奏曲イ長調』も、そうした旺盛な創作意欲の中から生まれた作品の一つです。

初演と評価

作品は完成後、ドイツの著名な音楽出版社フリッツ・ジムロックに提供されました。ジムロックは、社外協力者でもあった名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムに楽譜を送ります。ヨアヒムはこの作品に関心を持ち、1879年7月19日、親交のある演奏家たちと共に非公開の形で演奏会を開き、本作を取り上げました。この演奏会には作曲者自身も立ち会っており、その質の高い演奏に深い感銘を受けたと伝えられています。翌日、ドヴォルザークは友人に宛てた手紙の中で、「ヨアヒムは私を待っていてくれて、私のためだけに夕べの演奏会を開いてくれました。その席で、彼らは私の新しい四重奏曲と六重奏曲を、驚くほど深い理解と情熱をもって演奏してくれたのです」と喜びを記しています。

出版

本作は、この非公開初演の成功を受けて、1879年にベルリンのジムロック社から出版されました。その後、1957年には学術校訂版も刊行されています。

楽器編成

この作品は、弦楽六重奏という編成のために書かれています。

ヴァイオリン 2
ヴィオラ 2
* チェロ 2

楽曲構成

作品は以下の4つの楽章から構成されています。

1. アレグロ・モデラート（Allegro moderato）
第1楽章はソナタ形式で書かれています。
2. 「ドゥムカ」 ポコ・アレグレット（Dumka. Poco allegretto）
スラヴ民謡に由来する「ドゥムカ」と題された楽章です。
3. 「フリアント」プレスト（Furiant. Presto）
ボヘミアの速い舞曲である「フリアント」を取り入れた楽章です。
4. 「終曲。主題と変奏」アレグレット・グラツィオーソ・クヮジ・アンダンティーノ（Finale. Tema con variazioni. Allegretto grazioso, quasi andantino）
柔和で瞑想的な性格を持つ終楽章で、主題とそれに続く変奏から構成されています。

作風

本作は、『3つのスラヴ狂詩曲』作品45や、『スラヴ舞曲集』作品46といった、ドヴォルザークの国民楽派的な作風が顕著になる同時期の作品と共通する特徴を持っています。そのため、その性格において「スラヴ風」と呼ばれることがよくあります。特に、中間楽章である第2楽章のドゥムカや、第3楽章のフリアントは、様式化されつつも民族的な色彩を強く帯びています。終楽章は変奏曲形式であり、穏やかで叙情的な雰囲気を湛えています。

この弦楽六重奏曲は、ドヴォルザークが作曲家としての評価を確立し、国際的な注目を集め始める重要な時期に生み出された傑作の一つと言えるでしょう。

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