弦楽四重奏曲第1番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによる弦楽四重奏曲第1番 ト長調 K. 80 (73f) は、14歳を迎える作曲家が手がけた最初期の室内楽作品であり、彼の弦楽四重奏曲のジャンルにおける出発点を示す重要な楽曲です。この作品は、作曲された場所の名前から『ローディ』あるいは『ロディ』という愛称で知られています。

作曲の背景と経緯

この弦楽四重奏曲が生まれたのは、1770年、当時14歳だったモーツァルトが父親レオポルトとともに初めてイタリアを旅行していた最中のことでした。ミラノからボローニャへと旅を続ける途中、一行はその夜にローディという小さな町に立ち寄ります。このローディの宿屋において、1770年3月15日の夜7時に、モーツァルトは本作の作曲に着手しました。自筆譜には、この正確な日時と場所がイタリア語で記されており、作曲の瞬間を物語っています。

モーツァルトはローディで最初の3つの楽章、すなわちアダージョ、アレグロ、メヌエットを精力的に作曲し、清書まで終えました。しかし、ここで一旦、作曲は中断されます。彼はボローニャへ到着した後も、さらにローマやナポリといったイタリア各地を巡る旅を続けました。その後、再びミラノへ戻りオペラの上演を行った後、およそ1年を経て故郷ザルツブルクへ帰る旅路につきますが、この長い旅行の間、未完成だった弦楽四重奏曲に再び筆を進めることはありませんでした。

作品全体が完成に至るのは、最初の作曲から実に3年もの時が経過した後のことです。終楽章であるロンドーが書き加えられたのは、1773年にモーツァルトがウィーンに滞在していた時期、あるいは1774年にザルツブルクに戻ってからとも伝えられています。このように、弦楽四重奏曲第1番は、一度の作業で完成したのではなく、長い旅を経て故郷に戻った後に補完された、特殊な成立過程を持つ作品と言えます。

完成された作品に対して、モーツァルト自身は少なからず自信を持っていたようです。1778年のパリ旅行に際して、彼はこの初期の四重奏曲の楽譜を携行していたという逸話が残されており、彼の作品リストの中でも特別な位置を占めていたことがうかがえます。

楽曲構成

この弦楽四重奏曲は、伝統的な4つの楽章から構成されており、全曲を通しての演奏時間は約15分です。興味深い点として、第1楽章と第2楽章に付された速度標語は、父レオポルトが書き加えたものと考えられています。また、第3楽章のメヌエットにおけるトリオ部分も、父レオポルトによって改訂されたという記録が残っています。

各楽章の構成は以下の通りです。

第1楽章 アダージョ: ト長調、4分の3拍子。二部形式。緩やかなテンポで始まり、若きモーツァルトの抒情的な一面が垣間見える楽章です。
第2楽章 アレグロ: ト長調、4分の4拍子。ソナタ形式。活気に満ちたアレグロで、対照的な主題が展開される典型的なソナタ形式に従っています。
第3楽章 メヌエット - トリオ: ト長調 - ハ長調、4分の3拍子。メヌエットと中間部のトリオからなる舞曲楽章です。トリオ部分の改訂は、父レオポルトによるものとされています。
第4楽章 ロンドー：アレグロ: ト長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）。ロンド形式。快活で軽快なフィナーレ楽章で、主題が繰り返されつつ変化が加えられていきます。

この初期の弦楽四重奏曲は、後の傑作群に比べると形式や技法において簡素な面も見られますが、すでにモーツァルトらしい旋律の美しさや、各楽器間の対話の萌芽が感じ取れる作品であり、彼の室内楽作品の進化を追う上で貴重な存在と言えるでしょう。

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