弦楽四重奏曲第13番 (シューベルト)

弦楽四重奏曲第13番 イ短調 作品29, D 804「ロザムンデ」

フランツ・シューベルトが1824年に作曲した弦楽四重奏曲第13番 イ短調 作品29, D 804は、その第2楽章の美しい旋律が、劇付随音楽『キプロスの女王ロザムンデ』（作品26, D 797）の間奏曲から引用されていることから、一般に「ロザムンデ」という愛称で広く知られています。

作曲の背景

シューベルトは1824年、歌曲の作曲から離れ、室内楽の創作に注力するようになります。この弦楽四重奏曲は、その時期に作曲された作品の一つであり、1820年の未完の『第12番 ハ短調《四重奏断章》』（D 703）以来、実に4年ぶりの弦楽四重奏曲となりました。同時期には、有名な『第14番 ニ短調《死と乙女》』（D 810）も手がけられており、その他にも『八重奏曲 ヘ長調』（作品166, D 803）や『四手のためのピアノソナタ ハ長調《グラン・デュオ》』（作品140, D 812）、四手のための『ハンガリー風ディヴェルティメント ト短調』（作品54, D 818）、『アルペジオーネソナタ イ短調』（D 821）など、多くの作品が生み出されています。これは、シューベルトが室内楽というジャンルに新たな可能性を見出し、意欲的に取り組んでいた時期であったことを示しています。

初演と出版

この弦楽四重奏曲は、1824年3月14日にシュパンツィヒ弦楽四重奏団によって初演されました。彼らは、ベートーヴェンの最晩年の弦楽四重奏曲の初演も担当したことで知られています。初演では、特に第3楽章が聴衆から非常に好評を博し、アンコールに応えて繰り返し演奏されたという逸話が残っています。しかし、シューベルト自身は初演の出来に必ずしも満足していなかったと伝えられています。楽譜は同年9月7日にザウアー・ウント・ライデスドルフ社から「作品29」として出版され、作曲者の存命中に唯一出版された弦楽四重奏曲となりました。この楽譜は、初演を行ったシュパンツィヒ弦楽四重奏団のリーダーであるイグナーツ・シュパンツィヒに献呈されています。

楽曲構成

全4楽章で構成され、演奏時間は約30分です。

第1楽章：アレグロ・マ・ノン・トロッポ
イ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。
メランコリックな第1主題は、シューベルト初期の歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』（作品2, D 118）に基づいています。

第2楽章：アンダンテ
ハ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、再現部が展開部を兼ねたソナタ形式。
この楽章の主題は、『キプロスの女王ロザムンデ』の間奏曲から引用されており、このことが「ロザムンデ」という愛称の由来となっています。また、この主題は後に『即興曲第3番 変ロ長調』（作品142-3, D 935-3）にも用いられました。

第3楽章：メヌエット：アレグレット - トリオ
イ短調、4分の3拍子、複合三部形式。
メヌエット主題は、1819年に作曲された歌曲『ギリシャの神々』（D 677）に基づいています。

第4楽章：アレグロ・モデラート
* イ長調、4分の2拍子、再現部が展開部を兼ねたソナタ形式。

外部リンク

弦楽四重奏曲第13番 イ短調 作品29, D 804『ロザムンデ』の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

この作品は、シューベルトの室内楽作品の中でも特に人気が高く、美しい旋律と深い感情表現が特徴です。シューベルトの円熟した作曲技法と、彼の内面的な感情が色濃く反映された傑作として、今日でも多くの人々に愛されています。

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