弦楽四重奏曲第13番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの手による弦楽四重奏曲第13番 ニ短調 K. 173は、1773年にウィーンで生み出された作品です。この曲は、同時期に作曲された6曲の弦楽四重奏曲、通称『ウィーン四重奏曲』の最後に位置する第6番にあたり、この曲集の中で唯一、短調で書かれている点が特徴です。

自筆譜には単に「1773年」と記されていますが、父レオポルト・モーツァルトの手紙の内容から、本作は第12番（K. 172）と共に、その年の9月頃に完成されたと考えられています。モーツァルトが17歳であったこの時期に書かれた一連の『ウィーン四重奏曲』の中でも、このニ短調の作品は特に優れたものとして評価されており、同じく1773年に作曲された有名な『交響曲第25番 ト短調』（K. 183）と並んで、モーツァルトの初期における代表的な傑作の一つとして位置づけられています。

楽曲は全4楽章で構成されており、演奏時間は約17分です。この作品には、後にモーツァルトがその作風の中で頻繁に用いることになる半音階的な音進行が既に随所に現れており、彼の音楽語法の発展を予感させる要素を含んでいます。

各楽章の構成は以下の通りです。

最初の楽章はアレグロ・マ・モルト・モデラート、ソナタ形式で書かれており、調性はニ短調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）です。この楽章の特徴的な8分音符の連打は、後に作曲されることになるオペラ『魔笛』（K. 622）の有名な序曲や、『プラハ』交響曲として知られる交響曲第38番（K. 504）の旋律を想起させます。なお、この第1楽章に付記された速度標語は、父レオポルトによって加えられたものです。

第2楽章はアンダンティーノ・グラツィオーソ、ニ長調、4分の2拍子で、ロンド形式が採用されています。

第3楽章はメヌエットとトリオからなり、ニ短調、4分の3拍子です。

終楽章はアレグロ、ニ短調、4分の4拍子で、フーガの形式で構成されています。このフーガ形式の終楽章は、モーツァルトが晩年に到達する対位法の技巧を予見させるものであり、特に交響曲第41番『ジュピター』（K. 551）や弦楽四重奏曲第14番『春』（K. 387）の終楽章におけるフーガ的な書法を予告するものとして注目されます。

弦楽四重奏曲第13番 K. 173は、モーツァルトがその才能を急速に開花させていた時期の重要な作品であり、初期の傑作として、また後の成熟した様式への橋渡しとなる作品として、今日でも多くの人々に親しまれています。

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