弦楽四重奏曲第22番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第22番 変ロ長調 K. 589

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1790年に作曲された弦楽四重奏曲第22番 変ロ長調 K. 589は、全3曲からなる『プロシャ王セット』のうち2曲目に位置し、『プロシャ王第2番』とも称されます。

概要

この作品は、モーツァルト自身の作品目録によれば、1790年5月にウィーンでオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』K. 588の直後に完成されたと記録されています。ただし、この四重奏曲は、実はその約1年ほど前から着手されており、特に第2楽章まではほぼ書き進められていたものを、この時期に改めて完成させたものと考えられています。

広く知られている説では、第21番と同様にプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世へ献呈されたとされています。しかし、自作品目録には王への献呈を示す記述が見られないことや、プロイセン側でこの説を裏付ける資料が確認されていないことから、音楽学者メイナード・ソロモンなどはこの説に疑義を呈しています。

チェロ演奏を得意としていたとされる王に配慮し、この四重奏曲でもチェロが重要な役割を担っていると言われます。モーツァルトは、管弦楽作品においてチェロを声部として独立させることには、元来それほど積極的ではありませんでした（真偽や存在自体が疑問視される紛失作品、チェロ協奏曲K. 206aは例外とする）。しかし、この『プロシャ王セット』を機に、彼の作品におけるチェロの扱いは変化を見せます。後年の傑作であるオペラ『魔笛』や『クラリネット協奏曲』などでも、チェロはしばしば際立った旋律や役割を与えられています。こうしたチェロの活用は、モーツァルト晩年作品が持つ独特の響きを生み出す要因の一つとなったと考えられています。

構成

全4楽章で構成され、全体の演奏時間は約23分です。

第1楽章 アレグロ

変ロ長調、4分の3拍子、ソナタ形式で書かれています。なめらかに下降する穏やかな第1主題と、チェロによってその高音域で提示される特徴的な第2主題から成り立っています。

第2楽章 ラルゲット

変ホ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、二部形式です。モーツァルトの弦楽四重奏曲の中で、緩徐楽章に唯一「ラルゲット」という速度記号が用いられています。この指示は、チェロにたっぷりと歌うような旋律を表現させるための配慮だったと考えられています。

第3楽章 メヌエット：モデラート

変ロ長調、4分の3拍子です。この楽章は、メヌエット部分に対して、トリオ部分がそれまでにないほど大きな規模で書かれているのが特徴です。また、トリオの後半冒頭の約15小節では、有名な第19番『不協和音』K. 465の序奏部を想起させるような、どこか不気味な和声進行が現れます。さらに終結部では、第1ヴァイオリンによるバッハの様式を思わせる技巧的なパッセージが聞かれます。

第4楽章 アレグロ・アッサイ

変ロ長調、8分の6拍子、自由なロンドソナタ形式に近い構成です。全体として軽快で活気に満ちたフィナーレであり、非常に簡潔でありながらも、主題の労作に極めて優れており、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲にも通じる深みや側面を持っていることが指摘されています。

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