張曜

張曜（ちょう よう、Zhāng Yào、1832年 - 1891年）は、清朝末期の動乱期に活躍した軍人であり、官僚でもありました。字（あざな）は朗斎（ろうさい）といい、直隷省大興県（現在の北京市の一部）の出身です。

1850年代に中国各地で勃発した捻軍の反乱に際して、張曜は地元の団練（自警団）300人を率いて鎮圧に乗り出しました。その際、彼の知略は清朝の有力な将軍であるセンゲリンチン（僧格林沁）に高く評価され、その推薦によって清朝軍に加わり、固始知県（河南省の地方官）に任命されました。知県として在任中、太平天国の将軍、李秀成（りしゅうせい）の軍勢に70日以上も城を包囲されるという危機に直面しましたが、張曜は不屈の精神でこれを守り抜き、その功績からバトゥルの称号を授けられました。これは、清朝における勇猛な戦士に与えられる称号です。

その後、張曜は順調に昇進を重ね、1860年には知府（地方長官）、さらに道員（地方官の役職）へと昇格しました。1861年には河南按察使（司法長官）に任命され、その能力を遺憾なく発揮しました。その後も、山東省、河南省、直隷省（現在の河北省）などを転戦し、捻軍との戦いにおいて数々の戦功を挙げ、捻軍の平定に大きく貢献しました。これらの戦いを通じて、張曜は優れた軍事指揮官としての地位を確立しました。

1869年、張曜は左宗棠（さそうとう）の要請に応じて、陝西省と甘粛省で発生した回民（イスラム教徒）による反乱の鎮圧に参加しました。左宗棠は清朝末期の重要人物であり、張曜は彼の信頼を得ていました。1876年には、左宗棠に従い、ヤクブ・ベクの乱の鎮圧のため新疆に遠征しました。この戦いでは、トゥルファン（トルファン）の攻略に成功するなど、大きな功績をあげました。その後、カシュガルに駐屯し、新疆の安定に尽力しました。1884年からは、直隷省北部の防衛を担い、国境の守備にもあたりました。

1885年、張曜は広西巡撫（広西省の長官）に任命されましたが、赴任する前に山東巡撫（山東省の長官）に転任となりました。当時の山東省は黄河の氾濫によって深刻な被害を受けており、張曜は巡撫としてこの治水事業に力を注ぎました。彼は自ら陣頭指揮を執り、堤防の建設や河道の整備を進め、その結果、黄河の氾濫は大きく抑制され、農民たちは安心して生活を取り戻せるようになりました。張曜の治水事業は、地元の人々から非常に感謝されました。1888年には、海軍の軍務を補佐するよう命じられ、海軍の近代化にも貢献しました。

張曜は1891年にその生涯を閉じましたが、その功績を讃えられ、死後、勤果（きんか）という諡号（おくりな）が贈られました。これは、その生涯を通じて国に尽くした人物に与えられる名誉ある称号です。張曜は、軍人としてはもちろんのこと、官僚としても優れた才能を発揮し、清朝末期の激動の時代を生き抜いた傑物として、歴史に名を残しています。

張曜の生涯は、清末の動乱期における軍人・官僚の姿を示すものであり、その活躍は後世にも語り継がれています。彼の事績は、清朝の歴史書である『清史稿』巻454・列伝241に詳しく記されています。

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