強き蟻

小説『強き蟻』の概要

『強き蟻』（つよきあり）は、日本の著名な作家松本清張による長編小説です。この作品は1970年から1971年にかけて『文藝春秋』に連載され、1971年に単行本として出版されました。物語では、夫の遺産を手中に収めるために計画を練る女性の姿を描いており、サスペンス色が強いピカレスク小説となっています。作品名は、詩人西東三鬼の句「墓の前強き蟻ゐて奔走す」からインスパイアを受けています。これまでに3度テレビドラマとして映像化され、その人気は衰えません。

あらすじ

物語の主人公は、東銀座の水商売で働いていた伊佐子です。彼女は現在、S光学の取締役である信弘と結婚し、渋谷の松濤で贅沢な生活を送っています。しかし、伊佐子の心の内には、少しでも早く夫が死ぬことを願う複雑な思いが隠されていました。信弘とは年齢差があり、若さを保ちたい彼女にとって、夫の死は理想的な未来の実現に不可欠な要素だったのです。

和を持つ若い男性たちとの交友を楽しむ伊佐子は、ある日、その遊び相手の一人である石井が不幸にも殺人容疑で逮捕されてしまいます。弁護料の負担を求められた彼女は、食品会社の副社長で旧知の塩月に助けを求めます。しかし、そんな中、信弘が心筋梗塞を発症し状況は緊迫します。

伊佐子は、夫が死ぬのに最も適したタイミングを見計らいながら、繰り返し策を練ります。彼女の計画は果たしてうまくいくのか、それとも思いも寄らぬ結末が待っているのか、緊張感が高まっていく展開が続きます。

登場人物

• - 沢田伊佐子: S光学の重役夫人であり、夫に対しては愛情を装いながら、その裏で冷酷に計画を進める。
• - 沢田信弘: 伊佐子の夫で、技術者としての地位を持つが、その立場が逆に彼の運命を危うくする。
• - 塩月芳彦: 政治家との優れた人脈を持つ副社長で、伊佐子との関係は長い。
• - 佐伯義男: 伊佐子が依頼する弁護士で、彼女の秘密に関わる重要なキャラクター。
• - 石井寛二: 伊佐子の遊び相手であり、事件に巻き込まれる運命にある。
• - 宮原素子: 沢田家に訪れる若い速記者。
• - 福島乃理子: 石井の恋人であったキャバクラ嬢。

執筆背景

本作が生まれた動機には、著者が若い後妻が病気の夫を抱える複雑な状況に胸を打たれたことが影響しているとされています。而も、当時『文藝春秋』で本作の担当編集者だった高橋一清は、木々高太郎の死が本作のモデルとされることがあったとも言及しています。非常に生々しい人間ドラマが描かれる中、著者は清張型悪女を具現化した伊佐子を通じて、欲望の本質をえぐり出しています。

テレビドラマ化

『強き蟻』はこれまでに数回テレビドラマ化されており、各版で異なるアプローチがされています。1981年の版では浜木綿子が主役を務めました。続いて2006年版では若村麻由美が演じ、2014年版では米倉涼子が主演しました。これらのドラマは、それぞれの時代背景を反映しつつも、原作の緊迫したストーリーを忠実に再現しており、多くの視聴者に感動を与えました。

以上のように、松本清張の『強き蟻』は、緻密な推理と心理描写で観る者を引き込む作品であり、生きるための冷徹な選択を強いられた女性の姿が描かれています。

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