強制栽培制度

強制栽培制度：オランダ領東インドにおける経済政策

強制栽培制度（cultuurstelsel）は、1830年から20世紀前半にかけてオランダ領東インド（現在のインドネシア）のジャワ島を中心に実施された経済政策です。オランダ語で「栽培制度」を意味するこの言葉は、日本では「強制」という言葉が冠されることが多いです。公には「政庁（管掌）栽培」と呼ばれていました。

制度の背景

17世紀、オランダ東インド会社はモルッカ諸島を征服し、香料貿易を独占しました。この際、現地住民には一定価格での香料の買い上げと生産量の抑制が強制されました。17世紀末にオランダの支配下に入ったジャワ島西部では、綿糸、藍、コショウなどの貿易商品の供出が命じられ、18世紀初頭にはコーヒー栽培が奨励されました。しかし、生産量が増加すると購入価格は引き下げられ、コーヒーノキの伐採や植え付けが命令されるなど、現地の負担は増大しました。

18世紀末にオランダ東インド会社が解散すると、強制供出制度の廃止を主張する意見と、オランダ政府の利益を優先して制度の存続を主張する意見が対立しました。イギリス統治下では地租制度が実施されましたが、財政上の必要から強制供出制度は一部地域で継続されました。1816年にオランダが支配を回復した後も、従来の制度が受け継がれましたが、ジャワ戦争とオランダ本国の財政危機により計画は中断されました。

1820年代にはジャワ戦争とパドリ戦争の軍費により植民地政府の負債が増大し、オランダ本国ではベルギー独立革命が発生したため、政府は財政再建を迫られました。ヨハネス・ファン・デン・ボスは、地税に代わる政策として、強制供出制度を強化・拡大した栽培制度を国王に提案しました。支配が行き届かない地域では、現地の貴族を利用して統治を行いました。

制度の実施

1830年、ファン・デン・ボスは東インド総督に任命され、ジャワ全土で栽培制度を施行しました。主にジャワ島で実施され、サトウキビ、コーヒー、藍などが栽培対象となりました。スマトラ島やスラウェシ島でもコーヒー栽培が実施されました。

1840年代には制度が最も盛んな時期を迎え、ジャワの農民の約半数が商品作物の栽培に従事しました。栽培から出荷まではヨーロッパの私企業が担い、作物の搬入や加工は政府直営または契約工場で行われました。

ファン・デン・ボスは、以下の原則を打ち出しました。

住民は耕地の一部を輸出作物の栽培に提供すること
提供する耕地は村の総面積の5分の1以下とすること
輸出作物の栽培が稲作以上に労働を強いないこと
提供した土地の地租は免除すること
生産物は政府に引き渡し、評価額が地税を超える場合は差額を支払うこと
凶作の場合は政府が損失を負担すること
住民は首長の指導下で労働に従事し、ヨーロッパ人官吏は監視すること
労働は作物の栽培、収穫、運搬とする。工場労働は自由労働者が得られない場合のみ許可

しかし、これらの原則は忠実に履行されず、実際には耕地の半分以上が商品作物の栽培に使用され、食糧不足が深刻化しました。買い取り価格は低く抑えられ、道路や橋の建設は労役として課せられました。サトウキビの工場労働も強制され、政府が損失を負担する原則も守られませんでした。

作物の種類や量、土地の選定は官吏と企業によって決められ、住民の意思は無視されました。例えば、高地に適さない藍がプリアンガンで栽培された際、住民は重い負担を強いられました。水田地帯がサトウキビ栽培に転用され、コメ不足が発生した際には、コメの強制栽培も試みられましたが、飢饉を招きました。

制度への批判と廃止

栽培制度によるジャワの負の状況は、オランダ本国には伝わっていませんでした。1848年から1850年にかけての飢饉が新聞で報道され、ファン・ホエフェルなどの議員が制度の実態を明らかにし、廃止を訴えました。1860年には小説『マックス・ハーフェラール』が発表され、ジャワの窮状が広く知られることとなりました。

1863年に植民地相に就任したプッテは制度の修正に着手し、1870年には砂糖法が制定され、1879年から1891年の間に栽培制度が廃止されることになりました。ただし、コーヒーの栽培制度は1916年まで継続されました。1870年には農地法が成立し、土地所有権が認められましたが、栽培制度廃止後も、オランダの支配は形を変えて継続されました。

制度の影響

オランダ政府は栽培制度により莫大な利益を得て、1831年から1877年の間に8億2,300万ギルダーの純益を上げました。これは国家収入の大きな割合を占め、オランダ本国の財政再建、鉄道建設、公共事業に充当されました。

栽培制度は農民に貨幣経済を浸透させ、村落の共同所有を推奨しました。ジャワ島の人口は1830年ごろの約700万人から1890年には2,360万人に増加しましたが、土地を持たない農民が増加し、貧富の差が拡大しました。

また、支配者層と植民地政府の関係が強化される一方で、農民への権力行使も強まりました。ジャワの住民は農業に限定され、社会の二極化が進みました。

強制栽培制度は、宗主国に利益をもたらす植民地主義の典型的な例とされましたが、後に「富の流出」や「農業のインヴォリューション」などの理論の事例として研究されています。制度によってジャワの開発は進みましたが、それは住民の犠牲の上に成り立っていたと言えるでしょう。

まとめ

強制栽培制度は、オランダ本国の経済的発展に大きく貢献しましたが、ジャワの農民に多大な負担を強いた制度でした。この制度は、後に植民地支配の負の側面を示す事例として、歴史的に重要な教訓を与えています。

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