形而上詩人

形而上詩人：17世紀イギリス詩壇の異才たち

17世紀のイギリスで活躍した詩人たちの中に、「形而上詩人（Metaphysical Poets）」と呼ばれるグループが存在します。ジョン・ダン、ジョージ・ハーバート、アンドリュー・マーヴェルといった著名な詩人を含むこのグループは、その独特の詩風によって知られています。しかし、彼らが自ら「形而上詩人」を名乗り、組織や運動を形成したわけではありません。この呼称は、後の時代の批評家、サミュエル・ジョンソンによって与えられたものです。

サミュエル・ジョンソンと「形而上詩人」

1779年から1781年にかけて出版されたジョンソンの『詩人伝（Lives of the Most Eminent English Poets）』の中で、彼は17世紀初頭の詩壇について記述し、「形而上詩人」という表現を用いました。しかし、ジョンソンが「形而上（metaphysics）」を本来の意味で用いたわけではなく、むしろ当時の詩風を評する際に用いた比喩的な表現であったと考えられています。ジョン・ドライデンのジョン・ダンについての批判的な記述を踏まえたものだと推測されています。ドライデンはダンの詩に「metaphysics（空論、抽象論）」が過剰であると指摘しました。この「metaphysics」という言葉は、ウィリアム・ドラモンド・オブ・ホーソーンデンが以前、難解な概念や衒学的な屁理屈を指して使用していた言葉です。

20世紀における再評価

「形而上詩人」たちは、生きた時代においては必ずしも高く評価されていたわけではありませんでした。しかし、20世紀初頭、T・S・エリオットらによって再評価され、新たな光を浴びることとなります。エリオットは1921年に『形而上詩人』というエッセイを発表し、彼らの詩作に注目しました。この再評価によって、形而上詩人たちの作品は現代詩にも大きな影響を与えることになります。

形而上詩人の詩風

形而上詩人の詩作は、いくつかの特徴的な要素を持っています。まず挙げられるのは、ウィット（機知）に富んだ表現と、巧妙な論法です。さらに、彼ら特有の比喩表現である「形而上的奇想（metaphysical conceits）」が、詩に独特の深みを与えています。これは、一見無関係に見えるものを結びつける、驚くほど独創的な比喩です。例えば、アンドリュー・マーヴェルの詩では、魂と一滴の雫を対比させるなど、斬新なメタファーが用いられています。

また、一部の詩人、特にジョン・ダンは、ネオプラトニズムの影響を受けているとされます。初期のプラトニックな奇想の一つとして、愛する人の中に理想の美を見出し、それが永遠の王国の究極の美の記憶を呼び覚ますという表現が見られます。

代表的な形而上詩人たち

形而上詩人として挙げられる代表的な詩人たちには、以下の名前があります。

ジョン・ダン
ジョージ・ハーバート
アンドリュー・マーヴェル
ロバート・サウスウェル
トマス・トラハーン
ヘンリー・ヴォーン
ジョージ・チャップマン

さらに、以下のような詩人も、形而上詩人に含められることがあります。

トマス・カリュー
エイブラハム・カウリー
リチャード・クラッショウ
エドワード・ハーバート
リチャード・リー
リチャード・ラヴレース
キャサリーン・フィリップス
サー・ジョン・サックリング
エドワード・テイラー

これらの詩人たちは、それぞれ独自のスタイルを持ちながらも、共通の詩的特徴を共有し、17世紀イギリス詩壇において独自の地位を築き上げました。彼らの詩作は、現代においても高く評価され、読み継がれています。彼らの作品は、新しい科学や新しい放蕩の時代変化といった、17世紀の社会情勢を反映しているとも言われています。

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