彦根仏壇

彦根仏壇

彦根仏壇は、滋賀県彦根市とその周辺地域で製造されている伝統的な金仏壇の総称です。1975年（昭和50年）には、仏壇仏具業界で初めて通商産業大臣によって伝統的工芸品に指定されました。

歴史

彦根仏壇の起源は江戸時代中期に遡ります。当時、武具や武器の製作に携わっていた塗師、指物師、錺金具師などが仏壇製造に転向したことが始まりとされています。彦根市を含む湖東地域は、湖北地方と並んで古くから仏教が盛んな地域でした。キリシタン禁止政策に伴い、異教徒ではない証として仏壇を設けることが一般化したこと、そして彦根藩主の強力な庇護があったことが、彦根仏壇の発展を後押ししました。これにより、問屋制家内工業の形態と分業組織が確立されました。戦後には、彦根仏壇同業組合が結成され、検査制度を設けるなど品質向上に努め、彦根の地場産業として大きく発展しました。

彦根仏壇は、漆塗りや金箔押しが特徴であり、豪華な金仏壇に分類されます。一般的なサイズは幅4尺（約120cm）、高さ5尺8寸（約176cm）で、一間の仏間に納める大型のものが主流です。

製造システムの特徴

彦根仏壇の製造は、工部七職と呼ばれる各分野の職人が独立した工房を構え、分業制で行われる点が大きな特徴です。仏壇店は、各工程に沿って順次職人に発注をかけることで仏壇製造を進めていきます。各部品は「ほぞ組み」という分解可能な構造になっているため、修理や調整が容易です。以下に、生産の順序と各職の役割を示します。

1. 木地（木地師）: 欅、檜、松、黒檀など、仏壇に適した木材を選び、仏壇の本体を製作します。設計図はなく、注文に応じて「杖」と呼ばれる定規を新しく作って製作します。
2. 宮殿（宮殿師）: 1600種類にも及ぶ小さな木片の部品を製作し、屋根や柱などの宮殿部分を組み立てます。
3. 彫刻（彫刻師）: 仏壇の装飾部に、花、羅漢、菩薩などのデザインを鑿や小刀で手彫りします。高度な技術と芸術性が求められる工程です。
4. 漆塗（漆塗師）: 下地、中塗り、上塗りの順に漆を塗り重ね、さらに研ぎ出しや磨きの作業を繰り返します。木材の木目が見えるように塗る「木目出し塗り」は、彦根仏壇ならではの特徴です。
5. 蒔絵（蒔絵師）: 漆などで下絵を描き、その上に金粉、銀粉、貝などを蒔いて研磨し、仕上げの線を加筆して完成させます。豪華さや立体感を出す技法として「泥盛り」と呼ばれる技法が用いられます。
6. 金箔押（金箔押師）: 仏壇1本に対し、1000枚以上の金箔を1枚ずつ丁寧に貼り付けます。仏壇の輝きを決定づける重要な工程です。
7. 錺金具（錺金具師）: 金、銀、銅などの金属を使って彫金し、仏壇の装飾金具を製作します。細部にまでこだわった装飾が、仏壇の美しさを引き立てます。
8. 組立（仏壇店）: 七職の職人が製作した部品を仏壇店（問屋）が集め、組み立て、最終的な仕上げを行って彦根仏壇が完成します。

関連項目

七曲がり (滋賀県)

外部リンク
彦根仏壇事業協同組合

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