彫漆

彫漆（ちょうしつ）

彫漆とは、器物の表面に漆を幾重にも塗り重ね、その厚い漆層を刃物で彫り、レリーフ状に文様を表現する漆工技法の総称です。

概説

彫漆は唐代に始まったとされていますが、現存する遺品から判断すると、南宋時代から本格的に制作されるようになったと考えられています。元代、明代、清代にかけて盛んに制作され、現代に至るまで中国を代表する漆工技法として受け継がれています。

彫漆には様々な技法があり、その名称も中国と日本で異なります。代表的な技法としては、朱漆を用いた「剔紅（てきこう）」（日本では「堆朱（ついしゅ）」と呼ばれる）、黒漆を用いた「剔黒（てきこく）」（日本では「堆黒（ついこく）」と呼ばれる）があります。その他にも、「剔黄（てきこう）」、「剔緑（てきりょく）」、様々な色の漆を塗り重ねて彫り出す「彫彩漆（ちょうさいしつ）」などがあります。

最古の遺品としては、イギリスの探検家スタインが新疆ウイグル自治区ミーランで発見した「革製鎧小札」（大英博物館蔵）が有名です。8世紀から9世紀頃の遺物とされるこの小札には、黒・朱・黄色の漆が塗り重ねられ、勾玉文様や円文様、逆S字文様などが彫り表されています。しかし、彫りは浅く、彫漆の原初的な段階を示すものと考えられています。

宋代になると、彫漆の文様は細密になり、塗りは比較的薄く、彫りも鋭さがなく丸みを帯びてきます。

元代には、嘉興府西塘楊匯（浙江省）から張成や楊茂という名工が現れました。彼らの作品、例えば「椿尾長鳥文香盆」（京都・興臨院蔵）に代表されるように、彫りが鋭く写実的な作風の漆器が作られました。

明初の永楽年間（1403年－1424年）には、北京に官営工場の果園廠が設けられました。明代後期の嘉靖年間から万暦年間（1522年－1620年）と清代の乾隆期（1736年－1795年）にも盛んに制作されましたが、その様式は厚く柔らかい漆層に細密な文様を彫り出す技巧的な傾向を強めていきました。

代表的な作品

『梔子堆朱盆』
伝統的な彫漆名工である張成が制作したとされる元代の作品。円形の器体に全体に堆朱を施し、見込には一茎の梔子、外観面には唐草文様の意匠を表します。北京故宮博物院蔵。
『牡丹孔雀堆黒稜花盆』
ゆるやかに立ち上がりをつけた八弁の稜花盆で、雌雄の孔雀を上下に配し、その間隙を牡丹の花枝で埋め尽くしています。台北国立故宮博物院蔵。

参考文献

編集代表；尾崎雄二郎・竺沙雅章・戸川芳郎『中国文化史大事典』（2013年）大修館書店（「彫漆」の項、執筆担当；日高薫）
東京国立博物館・朝日新聞社・NHK、NHKプロモーション編集『北京故宮博物院200選』（2012年）発行；朝日新聞社・NHK、NHKプロモーション
東京国立博物館・九州国立博物館・ＮＨＫ・ＮＨＫプロモーション・読売新聞社・産経新聞社・フジテレビジョン・朝日新聞社・毎日新聞社編集『特別展　台北国立故宮博物院　神品至宝』（2014年）発行；ＮＨＫ、ＮＨＫプロモーション、読売新聞社、産経新聞社、フジテレビジョン、朝日新聞社、毎日新聞社

関連項目

漆工
堆朱
堆黒

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