影 (三橋美智也の曲)

三橋美智也のシングル「影」

「影」（かげ）は、日本の代表的な演歌歌手である三橋美智也が、1980年にリリースしたシングルレコードです。このシングルは、表題曲である「影」と、カップリング曲の「もがり笛の子守唄」の二曲を収録しています。

A面曲「影」

シングルのA面に配された「影」は、作詞を横井弘、作曲を林伊佐緒、そして編曲を白石十四男が手掛けています。この楽曲は、そのメロディや歌詞世界に加え、リリース当時のレコードジャケットに記された独特のフレーズによって、リスナーの心に深く刻まれました。

ジャケットには、「光り競える 現（うつ）し世の 吾（われ）は影なり男なり」という一節が記されていました。この言葉は、激しい競争が繰り広げられる現代社会（現し世）において、自らを「影」のような存在として捉えながらも、一本筋の通った生き方をする男性像を示唆しています。表舞台で華々しく活躍するのではなく、陰で支える存在、あるいは目立たなくとも確固たる信念を持つ存在としての「男」の姿が表現されていると考えられます。この詩が楽曲全体の持つ哀愁や深みを一層引き立て、聴く者に様々な解釈を促しました。

楽曲自体は、三橋美智也の力強くも叙情的な歌声が存分に活かされた演歌・歌謡曲テイストの作品です。林伊佐緒による情感豊かな旋律と、横井弘による情景描写や心情吐露に長けた歌詞が融合し、白石十四男による丁寧な編曲がその世界観をより豊かにしています。1980年代という時代背景の中で、多くの人々の共感を呼ぶようなテーマを扱った楽曲と言えるでしょう。

B面曲「もがり笛の子守唄」

このシングルのカップリング曲である「もがり笛の子守唄」もまた、三橋美智也の音楽キャリアにおいて重要な位置を占める楽曲です。この曲の作詞はたなかゆきを、作曲は三橋美智也自身、編曲は小町昭が担当しています。歌手としてだけでなく、作曲家としても才能を発揮していた三橋美智也自らが筆を執った点に注目が集まります。

「もがり笛の子守唄」は、実はこのシングルよりも前の、1978年にリリースされたアルバム『三橋美智也民謡の世界』に初めて収録された楽曲です。このアルバムは、三橋美智也が歌手生活25周年を迎えたことを記念して制作された特別企画盤でした。日本の豊かな民謡を新しい形で表現しようとする「新民謡」というジャンルに意欲的に取り組んだアルバムであり、「もがり笛の子守唄」はその中でも特に印象的な一曲でした。アルバムからのシングルカットとして、この楽曲がより多くのリスナーに届けられることになったわけです。

「もがり笛」とは、冬の強い風が戸や窓の隙間を通る際に発する、口笛のような音のことです。寂しさや冬の厳しさを感じさせるこの音を子守唄と組み合わせることで、一般的な子守唄とは異なる、どこか物悲しくも心に響く独特の世界観が創り出されています。三橋美智也自身が作曲を手がけたことからも、この曲に対する深い思い入れや、自身の音楽的なルーツである民謡への敬意が感じられます。

このシングルの意義

シングル「影／もがり笛の子守唄」は、三橋美智也が演歌歌手として不動の地位を確立していた時期にリリースされた作品でありながら、彼の音楽性の幅広さを示す一枚でもあります。A面で歌謡曲としての完成度を見せ、B面では自身のルーツである民謡を発展させた新民謡を披露しています。特にB面曲が、彼の歌手生活25周年を記念した意欲的なアルバムからの選曲であることは、彼のキャリアパスや音楽への真摯な姿勢を理解する上で興味深い点です。このシングルを通じて、三橋美智也という偉大な歌手の多角的な魅力に触れることができるでしょう。1980年代という時代背景とともに、これらの楽曲が持つメッセージや情感は、今なお多くの音楽ファンに語りかけ続けています。

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