後藤メモリアルレクチャー

後藤メモリアルレクチャー

後藤メモリアルレクチャー（Goto Memorial Lecture）は、傑出した天然物化学者であり、名古屋大学の教授を務めた後藤俊夫氏を追悼し、その学術的な功績を称える目的で企画された記念講演シリーズです。このレクチャーは、1990年8月29日に後藤氏が急逝されたことを受け、「後藤メモリアル・レクチャーシップ」という追悼事業の一つとして発足しました。1992年から2000年にかけて、後藤氏が長年拠点とした名古屋大学において開催されました。

この記念講演会の主たる目的は、後藤氏の研究分野である有機化学、特に天然物化学の領域において、世界を代表する一流の研究者を日本に招聘し、最先端の学術的な知見や研究成果を広く共有することにありました。後藤氏の業績を顕彰し、その研究に対する情熱を後世に伝えるとともに、国際的な学術交流を促進する重要な機会として位置づけられていました。

レクチャーシップの期間中に招聘された研究者は、厳選された世界トップクラスの有機化学者計6名です。その中には、ノーベル化学賞を受賞した研究者が3名含まれており、この講演会がいかに権威あるものであったかを示しています。招聘された学者たちは、名古屋大学をはじめとする日本の研究者や学生に対し、それぞれの専門分野における画期的な発見や理論について講演を行い、参加者に多大な刺激と深い洞察をもたらしました。

招聘された講演者とその来日年は以下の通りです。

1992年: デレック・バートン博士（Derek Barton、テキサスA&M大学）。後にノーベル化学賞を受賞。構造有機化学、特にコンホメーション解析の分野で貢献。
1993年: アルバート・エッシェンモーザー博士（Albert Eschenmoser、チューリッヒ工科大学）。複雑な天然物の全合成、特にビタミンB12合成研究で著名。
1994年: イライアス・コーリー博士（Elias Corey、ハーヴァード大学）。ノーベル化学賞受賞者。有機合成化学の理論と方法論、特に逆合成解析の確立に貢献。
1995年: ギルバート・ストーク博士（Gilbert Stork、コロンビア大学）。全合成戦略において革新的な手法を開発。
1997年: ジャン＝マリー・レーン博士（Jean-Marie Lehn、ストラスブール大学、フランス大学）。ノーベル化学賞受賞者。超分子化学という新分野を創始した一人。
2000年: 岸義人博士（Yoshito Kishi、ハーヴァード大学）。フグ毒テトロドトキシンなど、極めて複雑な生物活性天然物の合成を達成。

これらの著名な研究者による講演は、後藤俊夫氏の偉業を称えるとともに、日本の有機化学分野における国際的なプレゼンスを高め、次世代の研究者育成にも寄与しました。後藤メモリアルレクチャーは、計画された通り2000年をもってその幕を閉じましたが、招聘された講演者たちの学術的な貢献と、それが日本の化学界に残した足跡は、今日でも高く評価されています。

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