御幣

御幣（ごへい）とは

御幣（ごへい）は、神道の祭祀において神に捧げられる幣帛（へいはく）の一種であり、2本の紙垂（しで）を竹または木の幣串（へいぐし）に挟んだものを指します。幣束（へいそく）や幣（ぬさ）とも呼ばれます。

概要

通常、紙垂には白い紙が用いられますが、御幣に取り付けられる紙垂には、白だけでなく五色の紙や金箔・銀箔が用いられることもあります。

「幣」は麻（麻布）、「帛」は絹（白絹、絹布）を意味し、両者は捧げ物の代表的な事物であることから、本来「幣帛」は神々への捧げ物の「総称」を意味します。「幣帛」は「充座」（みてぐら）、「礼代」（いやじり）とも呼ばれます。広義には神饌（食物）も含むものの、狭義には神饌に対する特に布類を指し、布類では麻布が主流であるため、主に「幣」の字が用いられます。現物の代わりに捧げられる金銭は「金幣」と呼ばれます。

御幣は、神々への捧げ物を意味し、貴重な品を示す「幣」に、尊称の「御」を付けたものです。捧げ物としての御幣の中心は、両側に長く折り下げられた紙垂ではなく、串に挿まれた部分そのものにあります。

御幣の歴史

日本においては、古墳時代から神々に対し貴重な品々「幣帛」を捧げてきました。それらは稲、酒、塩、魚などの神饌のほか、鉄製の武器や農工具、器、玉、鏡、衣類・布類など、その時代の最先端技術を象徴する物でもありました。また、これらの品々は神々の霊魂が宿る依り代、神々の象徴でもありました。

奈良時代後半から平安時代前期にかけて、幣帛は特に布類を指すようになり、捧げ方も多様化し、折り畳んだ布を串に挿んで捧げる形式が登場します。この幣挿木（へいはさむき）が現代の御幣へとつながっていきます。幣挿木が神々への捧げ物だと示すため、捧げ物本体である「幣帛」（＝布類）とともに、神聖性を表現する木の皮の繊維（木綿）や麻を串に挿んで垂らしました。

時代が経つにつれ、「幣帛」は「布」に代わって「紙」を用いるようになります。紙もまた当時の貴重な品であり、この際も「木綿・麻」を垂らしていましたが、その代わりに、細長く折り下げた紙を両側に垂らす形式も見られるようになり、これを「紙垂」と呼びます。

室町時代から江戸時代にかけて、榊（玉串・真榊）のほか、神前に御幣を捧げる形が普及・定着化し、中世以降の御幣は、捧げ物本体である「幣紙」と神聖性を示す「紙垂」、それらを挿む「幣串」から成る構造が一般的となります。祭のたびに幣紙・紙垂部分が新調され、紙垂を大きく作る形式も広まっていきました。木綿・麻と同様に細かった紙垂は、徐々に太く大きくなり、挿む位置も上部になる例が多く見られるようになり、やがて、幣紙と紙垂が一体化した形式も現れます。

その特徴的な造形から、次第に紙垂部分が強調されていき、白紙のほか、染色した紙や金属製の紙垂部分を持つ御幣も現れ、紙垂の持つ印象はさらに強まっていきました。現代では、「紙垂」こそが御幣の象徴として認識されることもありますが、元来の捧げ物としての性格を受け継ぐのは、その中心である「幣帛」部分であり、そこには各時代における最上の品が用いられていました。

その由来から、元々は神に捧げるものでしたが、後に社殿の中に立てて「神の依代」あるいは「御神体」として、あるいは祓串のように参拝者に対する「祓具」としても用いるようになりました。

長い棒や竹の先端に幣束を何本か取付けたもののことを、特に「梵天」（ぼんてん）といいます。また、紙が普及する以前は、木の肌の一部を薄く削ぎ、渦状にちぢらせて残し垂らしておく「飾り棒削り掛け」も御幣の古い形の祭具として用いられました（削り花、穂垂、掻垂）。アイヌにも同様のイナウがあります。

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