太政官札

太政官札とは

太政官札（だじょうかんさつ）は、明治政府が1868年（慶応4年）から1869年（明治2年）にかけて発行した政府紙幣（不換紙幣）です。金札とも呼ばれ、日本で初めて全国で通用する紙幣となりました。通貨単位は江戸時代と同じく両、分、朱が用いられました。

発行の背景

明治政府は、戊辰戦争で多額の費用を必要としており、さらに殖産興業を進めるための資金も不足していました。そこで、参与兼会計事務掛の三岡八郎（後の由利公正）の提案により、1868年7月4日に太政官札が発行されました。当初は13年間の通用期限が定められましたが、後に5年間に短縮されています。

総額4,897万3,973両1分3朱が製造されましたが、実際に発行されたのは4,800万両で、残りは焼却されました。

流通の困難と対策

当初、国民は紙幣に不慣れであり、政府への信用も十分でなかったため、太政官札の流通は非常に困難でした。一時は太政官札100両が金貨40両にしか交換されないほどでした。

この状況を打開するため、政府は以下のような対策を講じました。

太政官札を額面以下で正貨と交換することを禁止
租税や上納に太政官札を使用するように命令
諸藩に石高貸付を命令

これらの政策や、二分金の贋金が多かったことなどから、太政官札の信用は徐々に向上し、流通するようになりました。

偽札問題と流通の停滞

しかし、太政官札の流通が進むと、今度は偽札が横行するようになりました。真贋の区別が難しくなったため、再び流通が停滞することになりました。

政府は、1869年5月28日の布告で太政官札の発行を3,250万両に限定し、通用期限を5年間に短縮しました。また、期限までに交換されなかった太政官札には、1年あたり6%の利子を支払うことを約束しました。

新貨条例と回収

1871年（明治4年）に新貨条例が制定され、通貨単位が「両」から「円」に切り替えられ、金本位制度が採用されました。この際、旧1両が新1円と定められました。

太政官札は1872年（明治5年）4月に発行された新紙幣である明治通宝との交換によって回収されていきました。政府は、1872年8月、1873年3月・7月の布告で、金札交換公債証券（記名証書、利札証書）との交換も行いましたが、公債証券に換えられたのはごくわずかでした。

太政官札の種類

太政官札には以下の額面と金額がありました。

10両
5両
1両
1分
1朱

これらの紙幣は、江戸時代の藩札や中国清朝の紙幣に倣い、表面に双竜、裏面に鳳凰の図柄が用いられました。その他、菊花紋章、桐紋、桐葉、唐草模様、瑞雲などがデザインされています。

製造技術と偽造問題

太政官札は、楮を原料とした厚手の用紙に銅版印刷で印刷されました。これは、一部の藩札の製造方法を踏襲したものでした。しかし、この用紙の表面には凹凸があり、微細な模様の精緻な印刷には不向きでした。また、銅版印刷の原版は印刷によって摩耗するため交換が必要でしたが、当時の日本の印刷技術では版面の正確な複製が困難でした。そのため、印刷にはばらつきが生じ、厳密な真贋判定を困難にしました。これらの要因が偽造を誘発し、偽札が横行する原因となりました。

流通状況と回収状況

明治10年末までの流通高、および回収と交換の状況は以下の通りです。

流通高（単位：円）
（具体的な金額は不明のため割愛）

回収・交換状況（単位：円）
発行総額：48,000,000
新紙幣と交換高：45,661,595
金札引換公債証書と交換高：2,052,745
没収および散逸：285,659
合計：48,000,000

参考文献

大蔵省編『貨政考要』
東洋経済新報社『明治財政史綱』
植村峻『紙幣肖像の近現代史』吉川弘文館、2015年6月。ISBN 978-4-64-203845-4。

関連事項

新貨条例
民部省札
太政官札贋造事件（福岡藩による偽造事件）
越前和紙
国立銀行紙幣
藩札

外部リンク

明治維新直後の紙幣（貨幣博物館サイト）

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