御酒殿神

御酒殿神：伊勢神宮と酒造りの歴史を繋ぐ神々

三重県伊勢市には、内宮と外宮にそれぞれ御酒殿神を祀る神社が存在します。御酒殿神は、かつて神宮で神酒を醸造していた御酒殿の神として崇められており、現在でも酒造業の繁栄と神酒醸造の安全を祈願する重要な神として信仰されています。

御酒殿神と神酒醸造

古くは御酒殿において神酒が醸造されていましたが、現在は忌火屋殿で醸造が行われています。御酒殿は、三節祭（6月、12月の月次祭、10月の神嘗祭）など、特別な祭事の際に神前に供える神酒を納める場所として利用されています。

神前に供えられる神酒は、白酒、黒酒、醴酒、清酒の4種類です。清酒は篤志家からの献納酒、それ以外の3種は忌火屋殿で醸造されます。三節祭以外の神事では醴酒と清酒、日別朝夕大御饌祭（常典御饌）では清酒のみが御酒殿に納められます。

古代には、粢に上御井神社の御井の水を加えた火無浄酒と、甘酒である火向御酒の2種類が御酒殿で醸造されていました。これらの神酒は、醸造方法や材料において、現代の神酒とは異なる特徴を持っていました。

御酒殿祭：酒造業の繁栄を祈願する祭事

御酒殿祭は、毎年6月、10月、12月の年3回行われる神事です。この祭事では、神前に供える神酒の醸造の成功と日本の酒造業の繁栄が祈願され、御酒殿に糀が奉納されます。

例えば、2013年には三重県酒造組合の会員38業者から38樽の酒が内宮に奉納されました。この奉納は、地域社会と神宮の深い繋がりを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。

内宮と外宮の御酒殿神

内宮の御酒殿神は、内宮神域の五丈殿北方に位置し、内宮所管社30社のうち第5位にランクされています。1910年に造り替えられており、近世までは忌火屋殿で白酒、御贄を清める場所で黒酒が醸造されていました。明治以降は神職が白酒と黒酒の醸造を担当しています。

『皇太神宮儀式帳』によると、内宮の御酒殿は、長さ約12m、幅約5.1m、高さ約2.4mの規模であったと伝えられています。

外宮の御酒殿神は、外宮神域の北御門参道脇、忌火屋殿の奥に鎮座しています。一般の参拝者は立ち入ることができないため、忌火屋殿前から遥拝することになります。外宮所管社4社のうち、最も格式の高い社です。1910年に造り替えられています。

近世までは、御酒殿近くに務所庁、斎殿、3つの炊事所があり、直会などが行われるなど、外宮の祭儀において重要な場所でした。『止由気神宮儀式帳』によると、外宮の御酒殿は長さ約7.5m、幅約4.8m、高さ約2.7mの規模であったとされています。

神宮における酒造りの歴史

1977年の神嘗祭に醸造された神酒は、伊勢市楠部町の神宮神田で収穫された白米、四日市市の業者から仕入れた米麹、上御井神社の御井の水を原料として、酒母なしで仕込まれたどぶろく仕込みでした。仕込みから12日後に完成した神酒は、白酒と黒酒に分けられました。白酒は何も加えず、黒酒には草木の灰が加えられました。

この年の神酒の醸造量は180Lでした。白酒と黒酒は濾過処理が行われるため「清酒」として扱われますが、醴酒はアルコール度数が1％未満であるため、「酒」としては扱われません。

交通アクセス

内宮の御酒殿神

JR参宮線・近鉄山田線伊勢市駅、または近鉄鳥羽線宇治山田駅から三重交通バスで約15分、内宮前下車。
近鉄鳥羽線五十鈴川駅から三重交通バスで内宮前へ。
伊勢自動車道伊勢西ICまたは伊勢ICから車で約5分。

外宮の御酒殿神

JR参宮線・近鉄山田線伊勢市駅から徒歩約5分。
三重交通「伊勢市駅前」バス停から徒歩約5分。
三重交通「外宮前」バス停すぐ。
* 伊勢自動車道伊勢西ICから車で約5分。

御酒殿神は、伊勢神宮と酒造りの歴史を深く結びつける重要な存在であり、その信仰は現在も受け継がれています。

もう一度検索