微分解析機

微分解析機とは

微分解析機は、微分方程式で表現される問題を、数値積分のようにアナログ的に解くための計算機です。デジタルコンピュータとは異なり、「数量的に」解を得る点が特徴です。主要な構成要素である積分器は、回転する円盤と、それに接触しながら放射方向に移動する円盤で構成されており、摩擦駆動による変速装置と類似した構造を持ちます。これにより、機械的な動作を通じて複雑な計算を可能にしていました。

歴史

微分方程式を機械で解く研究は、1836年にフランスの物理学者ガスパール＝ギュスターヴ・コリオリが、一階線型常微分方程式を積分する装置を設計したことに始まります。その後、ケルヴィン卿の兄であるジェームズ・トムソンが1876年に、任意の階数の微分方程式を積分できる「積分機」を発表しました。これが微分解析機の起源とされています。ケルヴィン卿の助言を受け、アーサー・ポーレンはトムソンの積分機を組み込んだ海軍の射撃計算機を開発しました。

実用的な微分解析機は、1928年から1931年にかけてハロルド・ロック・ヘイゼンとヴァネヴァー・ブッシュがMITで製作したものが最初期のものとされています。この機械は6個の機械式積分機を組み合わせたもので、ブッシュは当初「連続インテグラフ」と呼んでいましたが、後に「微分解析機」と改称しました。ブッシュ自身も「ケルヴィン卿の積分装置のアイデアに基づいているが、細部は全く異なる」と述べています。1936年には、ブッシュの研究室でクロード・シャノンが微分解析機の操作を担当していました。

イギリスでは、マンチェスター大学のダグラス・ハートリーがその設計を持ち込み、学生のアーサー・ポーターと共に概念実証機を製作。1935年には、メトロポリタン＝ヴィッカースに依頼して実用機を導入しました。ノルウェーでは、MITのものと同じ原理に基づき、12台の積分機を持つ「Oslo Analyzer」が1938年に完成しました。

アメリカでは1940年代に、米陸軍弾道研究所やペンシルベニア大学で微分解析機が製造されました。特に後者は、ENIAC開発以前に大砲の弾道計算によく使われていました。しかし、弾道計算には時間がかかり、ENIACの開発を促す要因となりました。1947年には、UCLAにゼネラル・エレクトリックが製作した微分解析機が納入され、1950年までにさらに3台が追加されました。これらの微分解析機は映画にも登場しています。

微分解析機はその後、汎用デジタルコンピュータにその役割を譲りましたが、その原理はデジタル微分解析機（DDA）として、またコンピュータグラフィックの描画法にも応用されています。

メカノを利用した微分解析機

1934年にマンチェスター大学で製作された微分解析機は、メカノの部品を多用しており、低コストながらも実用的な精度を提供しました。1935年にはケンブリッジ大学で同様のメカノを用いたマシンが製作され、現在ではニュージーランドの輸送技術博物館に収蔵されています。第二次世界大戦中には、熱伝導や爆発物の計算、伝送線路のシミュレーションなどに利用されました。メカノ製の微分解析機は、研究者や科学者によって実用目的で約15台製作されたと推測されています。

現在では、メカノ愛好家によって微分解析機が再現され、教育目的にも活用されています。学生が微分方程式を解くことで理解を深めるのに役立っています。

日本における微分解析機

日本では、3例の微分解析機が存在したと考えられています。最初のものは、東大航空研究所と昭和航空計器研究部の共同研究によって1942年に試作されました。その後、大型機の試作に着手しましたが、戦災で消失。試作機は戦後、東大生産技術研究所で使用され、参考にしてもう1機開発されました。また、昭和航空計器が製作したとみられる小型のものが、現在、東京理科大学近代科学資料館で動態展示されています。この機は阪大理学部の清水辰次郎が1947年に使用した記録があるものと推測されています。

微分解析機は、その後のコンピュータ技術の発展に大きな影響を与え、現代のテクノロジーの基礎を築いた重要な技術遺産と言えるでしょう。

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