徳大寺実定

徳大寺実定：平安時代後期の公卿と歌人

徳大寺実定は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した、名門徳大寺家の出身の公卿であり、優れた歌人としても知られています。幼くして叙爵を受け、順調に昇進を重ね、左大臣という高位にまで上り詰めました。百人一首にも選出されており、「後徳大寺左大臣」として広く知られています。

華麗なる経歴と政治的駆け引き

3歳で叙爵された実定は、その後着実に官位を昇進させ、左近衛権中将、権中納言、中納言といった要職を歴任しました。後白河天皇の姉の皇后宮権大夫を務めた経験もあり、朝廷の中枢で活躍しました。権大納言に昇進した後、正二位に叙せられるも、その後12年間は散位に甘んじました。これは、当時勢力を伸ばしていた平氏との政治的な対立が原因であったとされています。平清盛の政治的策略により、実定は一時的に政治の中枢から遠ざけられたのです。しかし、治承元年に大納言に復帰し、その後も内大臣、右大臣、そして左大臣へと昇りつめました。

源義仲の台頭とその後の一時的な失脚

源義仲が政権を掌握した際には、実定は喪中であったため公務を免除されていました。この状況を利用し、政権奪還を目指していた松殿基房は、実定から一時的に内大臣の職を借り、息子の師家を摂政内大臣に就任させました。しかし、義仲の敗死とともに基房・師家父子は失脚し、実定は内大臣の職に復帰することとなります。

源頼朝との関係

源義経と後白河法皇による源頼朝追討の宣旨発給には当初賛同したものの、義経が都落ちした後、なんと頼朝の推挙によって議奏公卿に任命されました。この事実は、実定の政治的嗅覚と柔軟性を示しています。その後も、右大臣、左大臣へと昇進し、九条兼実を支え、朝廷と幕府の繋ぎ役として活躍しました。左大臣在任中は病がちになり、後継者である三男の公継の参議任命を望み、官を辞して出家しました。

歌人としての才能

実定は、優れた歌人としても知られています。詩歌管絃に優れ、教養豊かな文化人として朝廷で活躍しました。多くの歌合や歌会に参加し、『千載和歌集』『新古今和歌集』など多くの勅撰集に作品が収められています。彼の歌集『林下集』は、その才能の高さを物語っています。特に、平氏との対立によって政治的に苦境に立たされた時期に多くの歌を詠んでおり、その心の内が作品に反映されています。晩年は歌作への意欲が衰え、そのことに関して俊恵から批判を受けたという記録が残っています。

百人一首

実定の代表作として、百人一首にも選ばれている次の歌が有名です。

ほととぎす　鳴きつる方を　ながむれば

ただ有明の　月ぞ残れる

この歌は、夏の情景を美しく詠み上げた名歌として知られています。

晩年と死

左大臣に就任後、病に倒れ、官職を辞して出家しました。彼の死を悼み、『吾妻鏡』には頼朝が深い悲しみを表したことが記されています。これは、頼朝からの信頼の厚さを示すエピソードといえるでしょう。

まとめ

徳大寺実定は、華麗な経歴と政治的駆け引き、そして優れた歌人としての才能を併せ持った人物でした。平氏との権力闘争、源氏との関係、頼朝との信頼関係など、激動の時代を生き抜き、朝廷の中枢で活躍した彼の生涯は、平安時代から鎌倉時代への移り変わりを象徴する存在として、歴史に刻まれています。

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