千載和歌集

千載和歌集：平安時代後期の歌の精華

『千載和歌集』は、平安時代末期、1188年に完成した勅撰和歌集です。全20巻から成り、略称は『千載集』。『詞花和歌集』に続く、勅撰和歌集七番目の作品であり、『新古今和歌集』へと繋がる重要な位置を占めています。

編纂：藤原俊成と時代背景

『千載和歌集』の編纂は、後白河院の命により、主に藤原俊成によって行われました。息子の藤原定家もその作業に携わったとされています。編纂開始は、寿永2年（1183年）2月、後白河院からの院宣によるものとされていますが、『親宗卿記』によれば、俊成はそれ以前から勅撰集の編纂に取り組んでいたと記されています。

俊成は、これ以前にも『山家集』や『経盛集』といった私撰和歌集を編纂しており、特に『三五代集』と呼ばれる、15代の天皇の在位期間中に詠まれた歌を集めた私撰集は、『千載和歌集』編纂の基礎となりました。この『三五代集』を基に、後白河院の意向を反映させながら、選歌が行われたと考えられています。

『千載和歌集』の序文である「仮名序」には、文治3年9月20日と撰進の日付が記されていますが、実際の奏覧は翌年に行われました。これは、後白河院の意向によるものと言われています。また、奏覧後には、俊成自身の歌が少ないとの指摘を受け、俊成自身によって歌が追加・修正されました。

選歌と構成：幽玄の美と時代への視点

『千載和歌集』は、1288首の短歌（巻第十九には長歌が3首「短歌」と称して収録）を収録しており、冒頭には俊成による「仮名序」が置かれています。

構成は、季節歌（春歌、夏歌、秋歌、冬歌）、そして、離別歌、旅歌、哀傷歌、賀歌、恋歌、雑歌、釈教歌、神祇歌といった様々なテーマの歌が収められています。

選歌の基準は、格調の高さと抒情性を重視し、俊成が提唱した「幽玄」の美学が反映されています。本歌取りなどの技巧も特色の一つです。

注目すべき点は、一条朝の正暦年間（実際は永延の始め）を上限として、それまでの勅撰集に漏れた名歌や、同時代の歌人の作品が数多く収録されている点です。特に、同時代の歌人の作品は全体の約半数を占め、当代重視の傾向が見て取れます。僧侶歌人の割合も高く、約2割にのぼります。

平忠度や平経盛といった、歴史的に有名な人物の歌も、詠み人知らずとして収録されているなど、興味深いエピソードも存在します。最多入集歌人は源俊頼（52首）で、俊成自身は36首となっています。その他、藤原基俊、崇徳院など、政治的に敗れた立場にあった歌人の作品も多く収められています。

伝本と研究：現代への継承

『千載和歌集』の最古の完本は、龍門文庫所蔵の鎌倉末期の写本とされています。俊成自筆とされる断簡「日野切」も残されています。現存する諸本の間には、僅かな和歌の出入りや作者名表記の違いはあるものの、大きな異同は見られません。龍門文庫蔵本は、現代における研究の基礎となる底本として活用されています。

現在では、多くの注釈書や研究書が出版されており、『千載和歌集』は、平安時代後期の歌謡文化を理解する上で、欠かせない資料となっています。その選歌の基準や、含まれる歌の数々を通して、当時の社会情勢や人々の感性を垣間見ることができ、現代においても高く評価されています。

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