徳川一族の崩壊

徳川一族の崩壊：東映時代劇の終焉と波紋

1980年公開の『徳川一族の崩壊』は、東映が1978年から製作した萬屋錦之介主演の大作時代劇シリーズの最終作です。ゴールデンウィークの公開を予定され、大きな期待が寄せられていましたが、興行成績は芳しくありませんでした。

本作は、幕末期の動乱と徳川幕府崩壊の過程を描いています。会津藩を主軸に物語が展開し、新撰組が登場しない点が特徴と言えるでしょう。シリーズの前作『柳生一族の陰謀』と同様に、史実とは異なる描写も多く、架空の人物が活躍するなど、フィクション色が強い作品となっています。

特に、孝明天皇と朝彦親王、三条実美といった歴史上の人物の暗殺シーンは、史実と大きく異なり、大きな問題となりました。この描写に対し、右翼団体が東映本社と京都撮影所に抗議活動を行い、公開中止を求める事態に発展しました。

抗議活動は、東映プロデューサーの日下部五朗が平安神宮と泉涌寺に参拝することで収束し、映画は公開されましたが、この騒動が、東映の大作時代劇路線の終焉を早めたと言われています。興味深いことに、後に神道学者となる高森明勅氏も、この抗議活動に参加していたことが知られています。

『徳川一族の崩壊』は、長らくソフト化されず、名画座での上映が限られていました。2007年にはシネマヴェーラ渋谷での完全版上映が予定されましたが、現存するフィルムの状態が悪く中止となり、2009年には状態の良い完全版の上映会が開催されるなど、その保存状態の悪さが問題視されてきました。2010年には新文芸坐で上映されましたが、この際、問題となった孝明天皇暗殺シーンがカットされた不完全版であったことが判明し、話題となりました。

キャストは萬屋錦之介をはじめ、平幹二朗、松方弘樹、梅宮辰夫など、当時の東映時代劇を代表する豪華俳優陣が名を連ねています。幕府要人から長州藩、薩摩藩といった諸藩の武士、そして皇室や公家まで、幅広い登場人物が登場し、幕末の複雑な情勢を反映したスケールの大きな作品となっています。

しかし、興行的な成功には恵まれず、歴史的史実に反する描写と公開時の騒動は、本作が時代劇史において特異な位置を占める要因となっています。興行面での不振、歴史的事実との乖離、そして抗議活動という、様々な要素が絡み合った結果、本作は時代劇映画史の中でも異彩を放つ作品として記憶されています。現在でも、完全な形で視聴できる機会は限られており、その希少性も本作の魅力の一つとなっています。

本作は、歴史劇としての正確性よりも、エンターテイメント性を重視した作品であると言えるでしょう。しかし、その大胆な演出と、公開を巡る騒動は、日本の時代劇映画、ひいては映画史における重要な一ページを刻んでいることは間違いありません。その歴史的背景や、公開当時の状況を踏まえて本作を鑑賞することで、より深く作品の世界観を理解することができるでしょう。

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