徳川厚

徳川厚：華族、実業家、そして多様な才能を持つ人物

徳川厚は、日本の近代史において特筆すべき存在です。徳川慶喜の四男として生まれた彼は、華族として男爵位に叙せられ、実業家として成功を収め、また政治家としても貴族院議員を務めるなど、多岐にわたる分野で活躍しました。その生涯は、華麗さと波乱が入り混じった、興味深いものでした。

生い立ちと家系

1874年（明治7年）、徳川慶喜の四男として誕生した徳川厚。母は側室の中根幸でした。幼少期は小林与七郎のもとで育てられ、兄の夭折により、慶喜の事実上の長男として教育を受けました。9歳で徳川宗家から分家し、華族に列せられました。徳川宗家の家督は、既に慶喜から徳川家達に譲られていた時期でした。1884年（明治17年）、華族令により男爵に叙爵。彼の弟には、徳川慶久（慶喜の公爵家家督相続者）、徳川誠、勝海舟の養子となった勝精など、それぞれの人生を歩んだ人物がいます。

実業家としての活動と政治家としての経歴

1887年、弟と共に静岡から東京に移り、学習院に入学。卒業後、1895年には旧越前福井藩主・松平春嶽の六女と結婚しました。1904年には貴族院男爵議員に当選し、1925年まで議員として活動。その間、東明火災海上保険（現在の日に新火災海上保険）の取締役も務めるなど、実業界でも重要な役割を果たしました。1927年には長男に家督を譲り、隠居生活に入りました。

ひき逃げ事件

1917年、運転免許を取得した徳川厚は、自ら運転する自動車でひき逃げ事件を起こしました。1918年3月、帝国ホテルでの酒宴の後、酔った状態で運転し、屋台に衝突。負傷者を出したまま現場から逃走しましたが、通行人の通報により逮捕されました。この事件により、運転免許の返納を命じられ、過料処分も受けました。この事件は、彼の高貴な身分に関わらず、法の裁きを受けることを示す象徴的な出来事となりました。

多彩な才能と人物像

徳川厚は、多様な趣味を持っていました。「趣味すこぶる広汎にして、競馬、撞球、銃猟、運動、絵画等何れも玄人の域に達する」と評されるほどでした。文学を好み、「龍山」という号を名乗っていたことからも、教養の深さがうかがえます。また、天理教の信者でもありました。

家族

彼の妻、里子は旧越前福井藩主松平慶永の六女でした。5男2女をもうけました。長男の喜翰は、父の隠居後、家督を継いで男爵位を襲名。次男の喜福は大木姓を名乗り、三男の喜好は後に詐欺強盗罪で服役。他の子供たちも、それぞれの人生を歩みました。子孫たちの系譜は、徳川家の歴史の一部として複雑なドラマを織りなしています。

まとめ

徳川厚は、華族としての地位、実業家としての成功、政治家としての活動、そして複雑な私生活など、波瀾万丈な人生を送りました。彼の生涯は、近代日本の変革期を生き抜いた、一人の特権階級出身者の物語として、歴史に刻まれています。様々な資料から彼の生き様を垣間見ることができるのは、歴史研究において貴重な財産と言えるでしょう。彼の残した足跡は、現代社会においても、様々な示唆を与え続けています。

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