徳川園

徳川園は愛知県名古屋市東区に位置する、歴史ある日本庭園です。特に江戸時代の大名庭園の様式を受け継ぐ池泉廻遊式で、広大な敷地を持つ旧尾張徳川家の大曽根別邸跡に広がっています。園のすぐ隣には、国宝「源氏物語絵巻」で名高い徳川美術館や、貴重な河内本『源氏物語』を収蔵する名古屋市蓬左文庫があり、一体となって文化的な趣深い地域を形成しています。

歴史

この庭園の起源は江戸時代、元禄7年（1694年）または翌8年（1695年）にさかのぼります。当時、尾張藩の第2代藩主であった徳川光友公が、自身の隠居所として約44ヘクタールという広大な「大曽根御屋敷」を造営したのが始まりです。光友公が亡くなった後、大曽根別邸は尾張藩の重臣である成瀬家、石河家、渡邊家の手に渡りました。しかし、明治22年（1889年）には再び尾張徳川家の所有となり、邸宅として利用されます。その後、昭和6年（1931年）、当時の当主であった徳川義親公は、この庭園を名古屋市に寄贈することを決定しました。翌昭和7年（1932年）、「徳川園」として一般公開されることになります。しかし、太平洋戦争末期の昭和20年（1945年）に発生した名古屋大空襲により、徳川園は壊滅的な被害を受けました。戦後、昭和21年（1946年）4月に「葵公園」という名称で再開されますが、地元の人々には変わらず「徳川園」の通称で親しまれ続けたといいます。平成元年（1989年）4月には、正式名称も再び「徳川園」に戻されました。そして、平成17年（2005年）に、江戸時代の大名庭園としての姿を再現する形で、日本庭園として本格的に再整備され、現在に至っています。

特徴

現在の徳川園は、かつての広大な敷地の一部を利用した池泉廻遊式庭園です。園内には、自然の景観を巧みに凝縮した「見立て」の手法が取り入れられています。例えば、園内に配置された山並みは木曽山脈を、大曽根の滝やそこから流れる渓流は木曽三川を、中心にある龍仙湖は伊勢湾を、そして牡丹園や菖蒲田といった広々とした空間は濃尾平野をそれぞれ表現しているとされ、尾張国の豊かさや地形の多様性をこの庭園一つで感じ取れるように工夫されています。また、園内にはいくつかの見どころがあります。その一つが「龍門の滝」です。この滝は、かつて尾張藩の江戸下屋敷「戸山荘」（現在の早稲田大学戸山キャンパス付近）にあった龍門の滝の遺構を移築・再現したものです。普段の水量は控えめですが、約20分ごとに水が勢いよく流れ出す仕掛けが施されており、かつて戸山荘で滝壺近くの飛石が水没したというエピソードを再現しています。さらに、茶室「瑞龍亭」も見逃せません。尾張徳川家が織田有楽斎を流祖とする有楽流を重視していたことから、この茶室は有楽好みの三畳台目（さんじょうだいめ）という様式で作られています。茶室への躙り口（にじりぐち）手前に置かれた燈籠も、有楽好みのデザインを再現したものです。庭園の西側、敷地からは少し離れたロータリー付近には、古い井戸と藪椿の木があります。この場所もかつては徳川園の一部でした。井戸は明治時代に作られたもので、藪椿は元禄時代の藩主光友公がお手植えしたものが太平洋戦争で失われましたが、現在はその二代目が大切に育てられています。庭園の西側に立つ「黒門」は、明治22年（1889年）に建てられた欅（けやき）造りの三間薬医門（さんげんやくいもん）です。この門は名古屋大空襲による被害を免れた徳川邸の数少ない遺構の一つであり、往時の大名屋敷の面影を今に伝えています。黒門、古井戸（釣瓶井戸）を含む園内のいくつかの建造物や塀、脇長屋、そして現在はレストランとして利用されている蘇山荘は、国の登録有形文化財に指定されています。

交通アクセス

徳川園へは、名古屋市営地下鉄名城線の大曽根駅から徒歩約15分（3番出口）、桜通線の車道駅から徒歩約15分でアクセスできます。また、基幹バス（市バス基幹2系統、名鉄バス）を利用し、「徳川園新出来」停留所で下車すれば、徒歩約3分と最も近いです。名鉄瀬戸線の森下駅からは徒歩約10分、JR中央本線の大曽根駅南口からも徒歩約10分程度です。

周辺情報

徳川園の周辺には、徳川美術館や名古屋市蓬左文庫のほか、歴史ある建中寺や様々なギャラリーなどがあり、散策を楽しむのに適しています。

結び

江戸時代から現代へと続く徳川園は、波乱に富んだ歴史を経て復元された、名古屋を代表する美しい日本庭園です。伝統的な大名庭園の技法と、尾張の風土を表現した見立ての妙が融合したこの場所は、訪れる人々に安らぎと歴史への思いを感じさせてくれます。

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