心と体と

心と体と：夢と現実が交差する、繊細な人間ドラマ

イルディコー・エニェディ監督による2017年のハンガリー映画『心と体と』(原題: Testről és lélekről)は、数々の映画賞を受賞した、心を揺さぶる人間ドラマです。ベルリン国際映画祭では最高賞である金熊賞をはじめ、FIPRESCI賞、エキュメニカル審査員賞と主要3賞を独占。さらに、第90回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされ、世界中から高い評価を受けました。主演女優のアレクサンドラ・ボルベーイは、ヨーロッパ映画賞でヨーロッパ女優賞を受賞するなど、キャスト、スタッフの才能が光る作品となっています。

舞台はハンガリーの首都ブダペスト郊外にある食肉工場。主人公は二人います。一人は、品質検査官の産休代理として派遣されてきたラーツ・マーリア。彼女は自閉症スペクトラム障害を持ち、職場環境に馴染むことに苦労しています。もう一人は、財務部長を務めるエンドレ。彼は左腕の障害を抱え、職場では陰に隠れ、人並みの幸せを諦めて暮らしています。

マーリアとエンドレは、一見すると接点のない二人です。しかし、ある共通点を持っていました。それは、毎晩同じ夢を見ていたこと。夢の中で、二人はそれぞれメス鹿とオス鹿となり、森の中で自由に駆け回り、互いに寄り添うのです。この不思議な夢を通して、現実世界ではなかなか築けない繋がりを深めていく二人。夢と現実が交差する中で、彼らの心は少しずつ変化し始めていきます。

映画の見どころは、二人の繊細な心の機微を丁寧に描いた演出です。自閉症であるマーリアの特有の行動や思考、そしてエンドレの抱える身体的なハンディキャップと心の傷。これらの描写は、決して同情や憐憫の目で描かれるのではなく、あくまで人間として、等身大に表現されています。二人の心の距離が、夢を通して、そして現実世界での小さな触れ合いを通して、ゆっくりと縮まっていく様子は、見る者の心を温かく包み込みます。

映画の評価も非常に高く、Rotten Tomatoesでは39件のレビューで92%もの支持率を獲得。Metacriticでも6件のレビューで加重平均値71/100と、批評家からも高い評価を得ています。

『心と体と』は、障害を持つ人々の生きづらさや、社会における偏見といった重いテーマにも触れつつ、決して重苦しくならず、むしろ希望に満ちた作品です。夢というファンタジーの要素を取り入れながらも、リアリティのある人間描写で、私たちに深い感動と余韻を与えてくれます。自閉症や身体障害といったテーマに関心のある方だけでなく、誰にとっても心に響く、忘れられない映画体験となるでしょう。

関連作品として、自閉症の科学者テンプル・グランディンの生涯を描いた作品などが挙げられます。彼女の生き様は、マーリアの生き方と通じる部分があり、比較検討することで、より深くこの映画のテーマを理解できるかもしれません。

この映画は、単なるラブストーリーに留まりません。夢という不思議な現象を通して、人と人との繋がり、そして自分自身への理解を深めていく、美しく、そして感動的な物語です。ぜひ、劇場で、もしくは配信でご覧になってみてください。

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