心定

鎌倉時代の密教僧、誓願房心定

誓願房心定（せいがんぼうしんじょう）は、鎌倉時代中期に活躍した越前国の僧侶です。建保3年（1215年）の生まれとされていますが、詳しい生い立ちや出家までの経緯は不明です。しかし、彼の生涯は密教への深い探求と研鑽によって彩られ、その道のりは数々の厳しい修行と学びの旅で埋め尽くされていました。

若くして密教の学習に励み始め、様々な高僧に師事して修行を積んでいきます。18歳から21歳にかけては、蓮徳大徳に師事し、28尊もの仏法を学びました。中でも吒天、毘沙門天、十二神将、天形星といった四尊の秘法を伝授され、大小口伝集六十四帖を写経したと伝えられています。

その後も修行は続き、英豪阿闍梨から十八道を受け、許可灌頂を受けました。25歳には越中国細野の阿聖阿闍梨より秘密瑜祇等流法身三種の灌頂を受け、立川一流の秘書を全て写経しました。さらに、道源大徳に師事し、中院一流の伝法を受け、瑜祇三重灌頂を受けました。

36歳には、越前国赤坂の新善光寺の弘阿弥陀仏という僧と出会い、数日間共に過ごして仏法を議論しました。その際、弘阿弥陀仏から越中国で流布していた立川流の経典を多数見せてもらいます。心定はこれらの経典を写経しました。37歳には上洛し、五条の坊門の地蔵堂で、当時流行していた「彼の法」と呼ばれる密教の一派の行者と出会い、経書を写し、秘伝を書き写しました。

その後も高野山の玄覚阿闍梨、醍醐金剛王院の大僧正実賢らに師事し、真言密教の奥義を深く学び続けました。47歳で遂に入壇の願望を果たし、100尊を超える大法秘法を授かり、瑜祇理趣の秘口秘伝を学び、内作業灌頂を受けました。

54歳となった文永5年（1268年）、心定は6人の高僧に師事し、九流の付法を受けました。特に醍醐寺金剛王院の実賢より相伝された醍醐三流の内、三宝院流と金剛王院流の二流を深く究め、最終的には三宝院流を嫡流としました。

心定は、長年に渡る密教の修業の中で、当時流行していた「彼の法」と呼ばれる密教の一派の教えに疑問を抱いていました。「彼の法」は、髑髏本尊儀礼など性的儀礼を含む教義を掲げていたとされています。

文永5年（1268年）、心定は『受法用心集』を著しました。この書の中で、心定は自らの修学の経緯を記し、同時に「彼の法」の教えを厳しく批判しています。「彼の法」の教えを「奈落の業報」と断じ、その教えが正統な仏教の教えではないと主張しました。

『受法用心集』の記述により、「彼の法」が立川流と同一視される見解が長く存在していました。しかし、近年の研究では、立川流と「彼の法」、そして文観派の三者にはほとんど関連がないとする見解も出てきています。

心定は、豊原寺円福院を開山しました。円福院は、室町時代末期の一向一揆や織田信長の攻撃によって荒廃しましたが、現在も真言宗智山派の寺院として存続しています。

誓願房心定は、生涯を密教の研究と修行に捧げた、鎌倉時代を代表する僧侶の一人と言えるでしょう。彼の厳しい修行の過程と、当時流行していた異端の宗教を批判した『受法用心集』は、今もなお、私たちに多くの示唆を与えてくれます。彼の業績は、歴史研究においても重要な位置を占めています。

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