豊原寺

豊原寺：越前を代表する白山信仰の拠点とその興亡

福井県坂井市丸岡町にかつて存在した豊原寺は、白山信仰の中心地として知られる天台宗の寺院でした。「白山豊原寺」とも呼ばれ、越前における宗教勢力の隆盛と、戦国時代の激動を象徴する存在でした。702年、泰澄大師によって創建されたと伝えられており、十一面観音を本尊として祀り、豊原八社権現も祀る寺院として栄えました。

平安時代には、天台宗寺院として確固たる地位を築き、広大な領地を有する平泉寺と並ぶ越前屈指の勢力を誇りました。藤原氏一族からの庇護と寄進を受け、その権勢はますます拡大していきました。治承・寿永の乱においては、源義仲を支持したことも記録に残っています。

室町時代に入っても、豊原寺は衰えることなく、なんと「豊原三千坊」と呼ばれる大規模な僧兵集団を擁するまでに発展しました。醸造された「豊原酒」も有名で、経済的にも大きな力を持っていました。

しかし、戦国時代は豊原寺に大きな試練をもたらします。永正3年（1506年）の九頭竜川の戦いでは、朝倉氏とともに越前一向一揆と激しく対立。勝利を収めたものの、翌年には一揆軍の攻撃を受けますが、塔頭である明王院や華蔵院の活躍、朝倉軍の支援もあり、これを撃退しました。

しかし、天正元年（1573年）の織田信長による越前侵攻、朝倉義景の自刃、そして続く富田長繁の反乱、越前一向一揆の勃発と、越前は未曽有の混乱に見舞われます。天正2年（1574年）2月、豊原寺はついに一向一揆軍に降伏を余儀なくされ、本願寺の坊官・下間頼照の本陣とされてしまいます。

同年4月、平泉寺が全山焼失する中、豊原寺は辛うじて存続したかに見えました。しかし、天正3年（1575年）9月2日、織田信長の軍勢が再び越前に侵攻すると、一向一揆に加担したとみなされた豊原寺は、三千坊に及ぶ塔頭すべてが焼き払われ、完全に滅亡しました。

織田信長による越前平定後、柴田勝家の甥である柴田勝豊が豊原寺跡に豊原寺城を築城しました。勝豊は豊原寺の復興を支援し、83石の土地を与え、東得坊と西得坊を建立させました。天正4年（1576年）、勝豊が丸岡城を築くと、豊原寺の旧地は返還され、近世においては、結城秀康から50石の寄進を受けるなど、福井藩や丸岡藩からの支援を受け、白山信仰の拠点としての役割を維持しました。しかし、かつての勢力は回復することなく、明治2年（1869年）の華蔵院焼失、神仏分離令の影響もあり、白山神社を残して廃寺となりました。

2010年12月4日には、個人宅に保管されていた豊原寺ゆかりの仏像や文書などを展示する「豊原三千坊史料館」が開館しました。豊原寺木造阿弥陀如来坐像、豊原寺木造薬師如来坐像など、貴重な文化財が保存・公開されています。豊原寺の歴史は、越前地域の宗教、政治、そして戦国時代の激動を理解する上で、重要な手がかりを与えてくれます。

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