忌部神社

忌部神社（いんべじんじゃ）

徳島県徳島市二軒屋町に位置する忌部神社は、由緒ある式内社（名神大社）の後継社であり、現在は神社本庁の別表神社として崇敬を集めています。旧社格は国幣中社でした。

祭神

主祭神は天日鷲命（あめのひわしのみこと）です。この神は、阿波忌部氏の祖神として知られ、『古語拾遺』によると、天照大神が岩戸に隠れた際、天太玉命に率いられて榖（かじ）の木を植え、白和幣（しらにきて）（楮の繊維を織ったもの、木綿（ゆう）ともいう）を作ったとされています。

歴史

『延喜式神名帳』には「阿波国麻殖郡 忌部神社」として記載され、名神大社に列せられていました。しかし、中世以降、兵火などにより所在が不明となり、近世には複数の神社が式内・忌部神社を主張する事態となりました。明治4年（1871年）には、一旦「所在地不明」のまま国幣中社に列格されましたが、翌年には麻植郡山崎村（現在の吉野川市山川町）の村社忌部神社が式内忌部神社と決定されました。

この決定に対し、美馬郡西端山（現在のつるぎ町貞光）の五所神社（現在の境外摂社・御所神社）が異議を唱え、論争が続きました。明治14年（1881年）には、五所神社が式内忌部神社に変更されましたが、山崎側が強く反発しました。最終的に、太政官の妥協策として、名東郡富田浦町（現在の徳島市）に新たな社地が定められ、明治18年（1885年）に眉山中腹の現在地が選定されました。当初は、郷社金刀比羅神社に仮遷座し、五所神社を境外摂社としました。明治25年（1892年）5月15日、社殿が完成し、現在地に正式に遷座しました。

なお、式内忌部神社の詳細な歴史については、忌部神社 (吉野川市) を参照してください。

神事

春季例大祭では、遷座を記念する「鷲替え（わしがえ）神事」が5月15日に行われます。

社殿

現在の社殿は、明治25年に創建されたものの、昭和20年（1945年）の戦災で主要な建物を焼失しました。現在の本殿は、昭和28年（1953年）に再建されたもので、正面3間、他の3面が2間の流造で、屋根は銅板葺きです。棟には千木と鰹木が置かれています。

また、織殿には織機が設置されています。

摂社

境外摂社として、御所神社があります。詳細については「御所神社」の項目を参照してください。

麁服（あらたえ）

『延喜式』には、阿波忌部が天皇即位の大嘗祭において、神服としての麻織物である麁服を調進することが定められています。忌部の末裔とされる三木家は、1990年の大嘗祭において、徳島で栽培された麻を使い、吉野川の忌部神社で織られた麁服を、当社の宮司が斎主となって神事を行い、調進しました。

麻畑には鳥居や竹矢来が設けられ、三木家当主が種をまく播種式、抜麻式、初紡式が行われました。選ばれた未婚の織女によって麻が織られ、完成した麁服は唐櫃に入れられ、皇居へと送られました。

参考文献

* 式内社研究會編『式内社調査報告』第23巻南海道、皇學館大學出版部、1987年

もう一度検索