志摩弁

志摩弁（しまべん）とは

志摩弁は、三重県の鳥羽市、志摩市、度会郡南伊勢町で話されている日本語の方言です。近畿方言の一種であり、その中でも独特な特徴を持っています。近年、人々の移動や放送の影響により、伊勢弁との同化が進み、「伊勢志摩弁」と呼ばれることもあります。

志摩弁の特徴

民俗学者の岩田準一氏によると、鳥羽方言はアクセントや言い回しにおいて大阪弁との共通点が多い一方で、日常的に使われる名詞は名古屋弁との共通性が高いと指摘されています。これは、鳥羽が古くから港町として栄え、帆船による交流が盛んだった名残と考えられます。異なる地域との交流が、志摩弁の独特な語彙や表現を生み出した要因の一つと言えるでしょう。

志摩弁の語彙

志摩弁には、他の地域の方言には見られない独特な言葉が数多く存在します。以下に、その一部を紹介します。

名詞
あんご：馬鹿、阿呆
いどころね：うたた寝
いなさ：東南風
オガイ：クロアワビ
おかずき：海女
親孝行星（おやこうこうぼし）：オリオン座
おんび：アワビ
ゴケンジョ、クダメ：トコブシ
ちちろ：コオロギ（古語）
どうぜい：大海老
のー：お前、あんた
なー:あなた
はこ：大便
まぜ：南風
まめ：シッタカという貝
もうれん：妖怪
やー：母（波切）、妻（答志）
やい気：元気、やる気、威勢、押し
わや：駄目

形容詞
あばばい：まぶしい
あたたい：あたたかい
おそがい・おとし：恐ろしい
かいだるい（かいだりい）：疲れてだるい
だいない・だいねえ：構わない
やぐい：脆弱な

形容動詞
がいな：大げさな、とても大きな

動詞
あざれる：魚が腐敗する
あめる：食物が腐敗する
くらわす：殴る
げんとうする：十分以上のことをする
ごうわく：腹が立つ
ちょける：ふざける
とごる：沈む
めめる：幼児が人見知りして泣き顔になる
よばれる：ご馳走になる
よめく：大声で叫ぶ

助詞
～こ：疑問・付加疑問を表す。
がれ：強意の終助詞

感動詞
おおきんな：ありがとう

接続詞
～やがぃ：～だから

志摩弁を使う著名人

志摩弁を話す著名人としては、歌手の渡瀬マキさんが挙げられます。アイドル歌手時代にはあまり目立ちませんでしたが、リンドバーグのボーカルとして活動していた時期には、フリートークで志摩弁を話す様子が印象的でした。

志摩弁の現状と未来

近年、共通語の影響や高齢化により、志摩弁を話す人が減少しつつあります。しかし、地域によっては、高齢者を中心に今も日常的に使われているほか、若い世代の間でも志摩弁の独特な響きや表現を愛し、継承しようとする動きも見られます。方言は、その土地の文化や歴史を色濃く反映する貴重な財産です。志摩弁が、これからも地域のアイデンティティとして受け継がれていくことが期待されます。

参考文献

飯田竜司「伊勢えび祭 "やい気"満ちる 多彩な踊り 『志摩のまつり』も」2011年6月5日付、中日新聞朝刊、伊勢志摩版28ページ
岩田準一『鳥羽志摩の民俗 志摩人の生活事典』鳥羽志摩文化研究会、1970年4月15日、337頁。
志摩町役場企画課『志摩町町勢要覧 町制50周年記念号 〜磯笛と潮騒のまちを記録する〜』志摩町役場企画課、2004年7月、121pp.
西垣晴次・松島博『三重県の歴史』（山川出版社、昭和49年、県史シリーズ24、付録 51 - 58ページ）

関連項目

伊勢弁
三重弁
紀州弁
* 志摩国

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