志賀貢

志賀貢（しが みつぐ）は、日本の医師であり、作家としても広く知られた人物です。1935年6月10日に北海道で生まれ、2023年2月20日にその生涯を閉じました。

彼は昭和医科大学で医学を修め、同大学院医学研究科の博士課程を修了。1971年には腫瘍細胞の細胞周期と放射線感受性に関する研究で医学博士号を取得しました。その後、臨床医として約50年間にわたり第一線で患者と向き合い続け、晩年まで現役医師として活動を続けました。

医師としての多忙な日常の傍ら、志賀は精力的な文筆活動を展開しました。医学の専門知識をベースにしたエッセイや健康関連の著作から、人間の内面に迫る小説まで、そのテーマは多岐にわたります。特に『医者のないしょ話』シリーズは、医学や健康について一般読者にも分かりやすく、時にはユーモラスに解説し、大きな反響を呼びました。その他にも、医学的な視点から見た健康法や性、心理、人間関係に関する著作を多数発表しています。

小説家としても、医療現場を舞台にしたミステリーや人情物を多く手掛けました。「女医彩子シリーズ」や「はぐれ医者放浪記シリーズ」などが代表的です。晩年には、長年の臨床経験に基づき、「臨終」や「死生観」といった、人生の終末に関するテーマに深く切り込んだ著作を数多く発表し、多くの読者に終活や自身の死について考えるきっかけを与えました。

また、志賀貢は作詞家としても知られています。特に、昭和の歌姫・美空ひばりが1986年に発表した楽曲「恋港」と「美幌峠」の作詞を手掛けたことは有名です。これらの楽曲は、志賀の同年の小説『美幌峠で逢った女』の作中に挿入された詩がもとになっています。

「美幌峠」の歌碑が舞台となった北海道美幌町の美幌峠に建立されていることからも、この楽曲が多くの人々に親しまれていることが分かります。楽曲が生まれた背景には、心筋梗塞を患う患者がいち早く知らせてくれたことや、兄弟同然に信頼する親友の医師が、作曲家・岡千秋が自ら歌ったデモテープを美空ひばりに届けたという、人間的な温かいエピソードがあります。岡千秋の歌声を聞いた志賀が腕に鳥肌が立った話や、親友が美空ひばりにテープを聞かせた際に手が震え、不眠になるほど緊張したという話は、その感動と重みが伝わります。志賀は小説の後書きで、親友や患者への感謝とともに、楽曲のヒットを願う気持ちを綴っています。

美空ひばりは当初、歌の舞台となった美幌を訪れる計画もありましたが、体調を崩し実現しませんでした。しかし、発売前のイベントで発表される予定だったり、発売後のカラオケ大会で入院中のひばりの肉声コメントが流されたりと、美幌との縁は深く続きました。志賀自身も美幌町で行われたイベントの審査員を務めるなど、この地との関わりを大切にしました。

医師として生命と向き合う専門家でありながら、文学や音楽の世界でも才能を発揮した志賀貢。その多才な活動は、多くの人々に影響を与え、その功績は今もなお語り継がれています。

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