恋港

概要

「恋港」は、美空ひばりが1986年9月1日にリリースしたシングルです。この曲は、作詞を内科医であり作家としても活動していた志賀貢が担当しました。志賀は診療のかたわら小説やエッセイを執筆しており、「恋港」とB面に収録された「美幌峠」は、彼が1986年10月10日に角川文庫から出版した小説「美幌峠で逢った女」に詩として登場します。

楽曲誕生秘話

志賀が自身の詩に曲がつけられたことを知ったのは、1986年5月も終わろうとする頃でした。心筋梗塞で苦しむ患者が、出張中の志賀にいち早く電話で知らせたのです。受話器からは、作曲を担当した岡千秋のピアノと歌声が流れ、志賀は感動のあまり鳥肌が立ったと言います。

岡が歌う「恋港」と「美幌峠」のテープをひばりに聴かせたのは、患者の主治医であり、志賀の親友でもありました。普段は気の強い親友も、この時ばかりは手が震え、出されたコーヒーを一気に飲んでしまうほどでした。志賀は「美幌峠で逢った女」の後書きで、『すばらしい親友を持ったものだと、つくづく思う。<中略>親友の友情や、患者さん達の好意にもむくいるためにも、このレコードだけは、なんとしてもヒットしてほしいと願っている。』と、深い感謝の思いを綴っています。

「恋港」と「美幌峠」

A面の「恋港」は、3番に「砕氷船」「流氷」といった言葉が登場し、冬のオホーツク海の風景が目に浮かぶようです。1986年に開催された美空ひばりの芸能生活40周年記念公演『'86歌声はひばりと共に』でも披露されました。

ジャケット写真は、1985年6月に朝日放送の番組『女ひとり旅』の収録で訪れた鳥取県の夏泊漁港で撮影されたものです。この時の映像は、「恋港」のカラオケ本人映像にも使用されており、現在でもDAMでひばりの姿を見ることができます。

B面の「美幌峠」は、「美幌峠で逢った女」を基に作詞されました。東京と北海道を結ぶ淡く切ない恋心を、霧に包まれた美幌峠の風景に重ね合わせ、過ぎ去った時間を風や雪のように表現しています。

「美幌峠」の2番には「サロマ」「裏摩周」「和琴」といった地名、3番には「蓮葉氷」という自然現象が登場します。屈斜路湖畔を望む美幌峠展望台には、ひばりの歌碑が建てられており、1990年に設置されたこの歌碑は、全国で6番目、北海道では唯一のものです。毎年、ひばりの命日である6月24日には、美幌観光ボランティアガイドの会が歌碑を清掃し、哀悼の意を表しています。

美幌町との関わり

ひばりは、歌の舞台となった美幌を訪れる計画もありましたが、体調を崩したため実現しませんでした。実現していれば、発売前の7月には美幌観光牛肉まつりの会場で発表し、発売後の10月8日には美幌町民会館で行われる記念カラオケ大会に出演する予定でした。

カラオケ大会では、入院中のひばりが自ら録音した肉声コメントが会場に流れました。ひばりは「美幌町の皆様、こんにちは！美空ひばりです。今日は、私の歌『美幌峠』そして『恋港』だけのカラオケコンクールだそうですが、新しい曲なのに美幌町の皆様には、もう覚えていただけたのですね！本当にありがとうございます。わたくしも、舞台やテレビで機会ある度に歌っていくつもりでおります。歌うことはストレス解消に大変役立つそうですよ（フフフ）。皆さん、これからも大いに歌って発散してください。それでは、『カラオケ大会』どうかがんばってください。」と語りかけました。また、亡くなる前には「元気になったら必ず、見に行く」という手紙も美幌町長に届いていました。この手紙とカセットテープは、道の駅「ぐるっとパノラマ美幌峠」の2階ラウンジに展示されています。

レコーディングの裏側

このレコーディングには、かつての担当ディレクターであり、コロムビア邦楽企画室からひばりプロダクションに出向していた森啓が久しぶりに立ち会いました。しかし、この時の録音はカラオケでのものでした。

その後の縁

志賀、岡と美幌の縁はその後も続き、町内で行われた「美幌100年記念カラオケ大会」では審査員を務めました。

2012年には、全都道府県をテーマにした作品を集めたコンピレーションアルバム『にっぽん歌紀行』が発売されました。北海道からは2曲が選ばれており、「美幌峠」は北北海道の曲として収録されています。

収録曲

両曲とも作詞は志賀貢、作曲は岡千秋、編曲は斉藤恒夫が担当しました。

1. 恋港
2. 美幌峠

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