志都乃石室

志都乃石室は、神話に登場する大国主神と少彦名神の国造り伝承に由来する場所として知られています。万葉集（巻3-355）には、生石村主真人（おいしのすぐりのまひと）の歌「大汝少彦名乃将座志都乃石室者幾代将経（おほなむち すくなひこのいましけむ しつのいわやは いくよへにけむ）」が収められており、その名が記されています。

この歌の作者である生石村主真人は、続日本紀によれば天平10年に美濃少目となり、天平勝宝2年には外従五位下に叙されたとされています。歌に詠まれた志都乃石室が具体的にどこを指すのかは、はっきりとは分かっていません。そのため、現在に至るまで様々な説が唱えられています。

有力な説としては、以下の場所が挙げられます。

生石神社の石乃宝殿（兵庫県高砂市）：巨大な石造物である石乃宝殿は、その特異な形状から古代の祭祀場であったとする説があり、志都乃石室である可能性も指摘されています。
静之窟（島根県大田市）：平田篤胤の『古史伝』では、この地が志都乃石室であると比定されています。静之窟は、神聖な場所として古くから信仰を集めてきた場所です。
志都岩屋神社の岩屋（島根県邑南町）：本居宣長の『玉勝間』では、この神社の岩屋が志都乃石室であるとされています。岩屋は、自然の岩を利用した洞窟であり、古代の人々が神を祀った場所と考えられています。

これらの説以外にも、志都乃石室の場所については様々な議論がなされており、いまだ確定的な結論は出ていません。しかし、それぞれの場所が持つ歴史や伝承は、古代の人々の信仰や文化を今に伝える貴重な手がかりとなっています。

志都乃石室は、単なる地名ではなく、古代日本の神話や歴史、文化が凝縮された場所であると言えるでしょう。その場所を特定する試みは、古代史の謎を解き明かす鍵となるかもしれません。

参考文献

佐佐木信綱著『萬葉集事典』206頁、平凡社、1962年（再版）
大久間喜一郎・森淳司・針原孝之編『万葉集歌人事典』47頁～48頁（稲垣富雄）、雄山閣出版、1982年
谷川健一編『日本の神々 神社の聖地（7）山陰』169頁～（白石昭臣）、白水社、2000年
『島根県大百科事典（上）』733頁（工藤忠孝）、山陰中央新報社、1982年
『日本歴史地名体系第二九巻 兵庫県の地名』206頁、平凡社、1999年
* 『日本歴史地名体系第三三巻 島根県の地名』549頁～550頁、平凡社、1999年

もう一度検索